Long

□いつかまたこの夏に
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 蒼夜達の足音を聞きつけたのか、家の裏手から真っ白い中型の犬が駆け寄ってくる。無邪気にじゃれてくるその姿に一つ笑って、蒼夜は頭を撫でてやった。

「よー、結衣ちゃん、今日も大量。カボチャとナスとキャベツにトウモロコシだ! 絶対ウマイと思うぞー」

 上がり框に乗っかりながら、おじさんが両手いっぱいの野菜を掲げた。

「結衣ちゃん言わないでください恥ずかしい」

 奥の台所から、先刻燈夜に声をかけたおばさんがエプロンで手を拭きながら現れる。と、そのおじさんの姿を見た瞬間に優しげな風貌に多大な呆れを滲ませため息をひとつ。
 おじさんを適当にあしらいつつ、外にある水場に追いやった。おじさんの足に纏わりつきながらシロが後を付いていく。

 まったく…とか言いながら家の中へ戻るおばさんを見つめる。少しだけ、羨ましいような気がした。

「……お帰りなさい」

「え? あ、うん、ただいま。あ、」

 おじさんと入れ替わりに蛇口で泥を洗い落としていると、挨拶を紡ぐ小さな声。鈴の音を揺らしたような声音が蒼夜の思考を浮上させた。
 顔を上げて返事をしたところで、同じく居候の身である少女は走り去ってしまう。ゆらゆら揺れるピンクのスカートの端だけが、蒼夜の目に焼き付いた。

「『ありがとう』って言おうとしたんだけどな……」

 ポタリ、力なく下がった指先から雫が零れ、剥き出しのコンクリートに黒いシミを作った。

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