Long

□いつかまたこの夏に
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 それから掃除を手伝って、空いた時間に外へ出る。迷わないように村の周辺を散策して、気に入った場所で絵を描くのだ。
 オニギリを自分で作って持って行くこともあった。
 ほとんどは家へ戻っておばさんのおいしい料理をご馳走になっている。そうすると決まって、村の子供達が家に押し寄せてきたり、二十メートルも離れた隣家のおばあちゃんに、「若い子がいて助かるよ」そんな理由からお使いを頼まれたりした。

 かれこれもう、三週間ほどだろうか。
 それでもこの生活が嫌だなどと思えないのは、ここの人々の空気が優しいから。

 都会から来た子供なんて、人口密度の低い村では敬遠されるだろう、でも、だからと言っておめおめ家に帰りたくはないから頑張ろうと、そんな事で頭がゴチャゴチャだった自分をすんなり受け入れてくれたからだと思う。

「よ……いしょっと」

 束ねた畑道具を勢いをつけて肩に担いだ。コレが結構重い。朝の畑仕事も最初はキツかった。

「いつもスマンね、蒼夜くん」

「いいえ…と言っても、ようやく慣れたとこですけど」

 十八歳という年齢にしては線の細い蒼夜だが、最近は少しだけ力が付いてきたように思う。もちろん都会育ちの彼は力仕事などしたことがなかったのだから、大きな進歩だろう。

 畑の脇のあぜ道をおじさんと二人で上っていけば、蒼夜がお世話になっている家が見えてくる。村の入り口とは反対側に位置する村外れに築ウン十年という立派な木造建築二階建てである。
「天芦(あまよし)」という表札を一瞥して、蒼夜は門をくぐり抜けた。

「ただいま帰りましたー。シロも、ただいま」


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