Long

□いつかまたこの夏に
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 視界いっぱいを埋め尽くす緑に、屈んでいた体を伸ばして見入った。少し首を上向ければ、今日も快晴の空が目に入る。日差しはまだそこまで強くないが、この場所は盆地にあるためきっと暑くなるだろう。

 それでも、都会の雑音や排気ガスに煩わされなくて、当初覚悟していたよりも結構快適な生活をしている。

 コキコキと首を回して強張った肩をほぐしていると、少し離れたところから自分を呼ぶ声が聞こえた。家の玄関から出てすぐの、畑の一段高くなった場所から、お世話になっている家のおばさんが、両手をメガホン代わりにして叫んでいる。

 もうすぐ朝ご飯ができるから、そういうおばさんに了承を伝えて、綾崎蒼夜(あやさき そうや)は自分と同じく畑仕事に精を出していたおじさんの元へ向かった。

「おじさん、もう朝ご飯にするそうです」

「おー。そっかそっか。じゃあコレでお仕舞いだー」

 日に焼けた肌から白い歯を覗かせて、おじさんがニッカリと笑う。蒼夜はそれにほんのりと笑みを零して、片付けの準備を始めた。

 四方を山に囲まれたこの村に来てから、だいぶ日が経った。朝早い時間に起きて、畑に出ておじさんの手伝いをするのが日課になっていた。
 その後は全員で集まって朝食を食べる。今まで家族全員が揃って食事をするなんて経験がないものだから初めの内は戸惑ったが、今ではすっかり当たり前のようになってしまった。


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