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□ずっと、ずっと
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『お前が見てるのは俺じゃねえだろ』

 髪の毛だけは素晴らしく明るく更にはツンツンと立っているのに、瞳だけはやけに澄んだ黒色で。いつだったか『その髪には似合わないよ』と冗談で笑ったら、拗ねたように睨まれたのを思い出す。
 別れる前に、哀しく、泣き出す直前の子供のように顔を歪ませて。それでも『じゃあな』と笑った彼の姿に、千晶は胸がツキンと痛んだことをも思い出した。

『バイバイ……シュウ』

 別れてから、結構この男のことを好きだったんだな、などと考えたら、頬を一筋、冷たいものが流れていた。

「ぅ、……ん……ゆ、め?」

 朝の光がカーテン越しに揺れて、顔の上に線を引いている。その光が瞼から瞳を刺激して、千晶は眩しさに意識を浮上させた。頬に流れていた涙の跡に気づいて、すぐに指で拭い去る。
 夢に出てきた男のではない、いつもの自室である。ただし、実家ではなく、職場にぼど近い場所にある一人暮らし用の、だ。
 そして、目を開けた先に飛び込んでくる、明るいライトブラウン。フワフワとしていて触り心地の良さそうなそれに、そろりと手を伸ばす。

「……ぁ」

「なにしてんの?」

 伸ばしたはずの手はしかし、隣で幸せそうに寝ていた男の手に捕らわれ、千晶の細い指ごとギュッと握り込まれてしまう。

「起きてたの?」

「んー? 気配で起きた」

「ふふっ……なにそれ」

 イタズラが成功した幼子のような無邪気な笑顔に、千晶は小さく吹き出した。
 ケラケラ笑う千晶の隣で、千草が上体を起こす。覆い被さるようにベッドに手を付くと、おはようの言葉とともに千晶の額にキスが落とされた。軽く微笑しながら優しく頭を撫でられて、千晶の大きな瞳が嬉しそうに細められる。
 昔から、ずっと欲しかった手の感触。額に落とされるキスも、愛おしむように見つめる細められた瞳も、全部。全部、自分のモノになったらいい……と願っていた。欲しかったのだ、ずっと。
 一年前に別れた元カレも、その前の何人かの彼氏も、一緒にいればいるほど目の前の幼なじみと比較してしまって。付き合い続けるほどに罪悪感が降り積もって、結局はダメだった。
 その幼なじみが急に手に入って、千晶にも正直戸惑う気持ちはある。
 それでも、千草の指が触れるほど、千晶の胸には幸せすぎるほどの想いが広がっていくのである。

(千草……好き)

 気持ちが前面に表れている千晶の表情に、クスッと笑いを零すと、千草はベッドから降りて伸びをした。
 シャツを着てはいるもののボタンは全て全開で、スラリとした白い胸元が覗いている。昔から見慣れているし昨日も見たとはいえ、年下の幼なじみの“男”を意識してしまい、千晶は慌ててそこから目を逸らした。


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