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□Prismatic love 〜気づけば世界は虹色で〜
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ポカンと現状理解を放棄した俺の前で、その少女の綺麗な曲線を描く眉が寄せられ、大きな黒い瞳になんとも言えない光が宿っていく。
「あの……大丈夫ですか?」
「へ……あ、え……?」
発された言葉にマジマジと少女を眺めてしまう。
まさか……心配されてるのか……?
見ず知らずの男のことを、この美少女が……?
そして差し出されたのは、汗をかいたスポーツドリンク。青地に白い文字が目立つペットボトルだ。
冷えたところから急激に暑い場所へ出されたのか、表面にはビッシリと水滴が付着していて。その水滴が垂れないようにだろう。ピンクの可愛いハート柄のハンドタオルで、底の方を包んでいた。
「め、迷惑でなければ、これ……どうぞ!」
飲み物を差し出される意味を理解できず、ボケッとその容器を見ていると、焦ったような声とともにズズイと両手で更に目の前に突き出された。
「いや、あの……」
だから――、なんで?
訳も分からず、朦朧とする頭でとにかく断ろうとペットボトルから顔を上げた俺は、視界に入った彼女の姿に固まった。
「あ、あの、なんかフラフラしてましたし、この暑さでスーツとか着てるし……っ、熱射病とか脱水症状とか起こしてるんじゃないかって……!」
黒目がちの瞳に薄い膜を張り、微かに目を伏せて睫毛を震わせる姿は、なんとも可憐だとしか言いようがなく。
「気に、なって……」と控えめに呟く姿に、言い知れない庇護欲を感じた。
まさか……いや、やっぱり――。
その不安げに揺れる瞳を真正面から受け止めて、俺は、今更ながら本当に彼女が心配をしてくれてたんだと自覚した。
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