一般の館

□死神を従えた女
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深夜、悲鳴が聞こえた。
それは隣で寝ていたはずの主人のもの。

ああ、またか・・・。


「今日から、お前は俺のものだ」


今回は意外と長かった方だ。
そんなことを思っていると、男の声が聞こえた。
ゆっくり顔を上げる。
そこには、にやりと嫌な笑みを浮かべた男の姿、そして思った通り、主人だった男の死体があった。

男の顔をまじまじと見てみる。

次の主人はこれか。
先ほどまでの主人よりはマシな顔をしている。

まぁ、それがどうと言うわけではないけれど。
どうせなら、顔が良い方がまだ仕える気にはなる。


「何だ?」

「いえ、何でも。仰せのままに、ご主人様」


この人は、どのくらい保つのだろう・・・。



小さな国の王女。
小さな頃から、可愛い、綺麗だともてはやされた。
それを驕るつもりはなかったけれど、ただ純粋に嬉しかった。

だが、次第にそれを疎ましく思うようになった。

年頃になると、縁談が次々と舞い込んできた。
全て、私の顔に惹かれた人間ばかり。
私の内面は無視されていることに気づいた時、何かが冷めた。
顔のことを褒められる度に心は冷え、何も感じなくなっていった。

そんな私が恋をした。
相手は、隣国の王子。
優しい人で、とにかく私を愛してくれた。
顔だけでなく、中身も一緒に。
彼の猛アタックの末、彼と結婚することになった。
幸せだった。
彼に、「愛している」と囁かれるのが好きだった。

それなのに・・・。

私の噂を聞きつけた西の国が襲いかかってきた。
私の国だけでなく、隣国の彼も私を守るために戦った。
しかし、元々小さな平和な国。
戦いには不慣れな者たちばかりで、適うはずがなかった。

そして国は滅び、彼も亡くなった。
私だけが助かった。
西の国の王の妃となるために、私だけが、生き残った。
その時から、私は心を閉ざした。


あれから数年、また主人が殺された。
これで何人目だろう・・・?
数えるのも面倒くさい。
王に仕えていた大臣、その家に出入りしていた商人、彼の店で働いていた青年・・・。
別に私が望んだわけではないこの顔欲しさに、多くの人間が人間を殺し、また別の人間に殺された。
それを何とも思わない私は、どこかおかしいのだろうか。
いや、何とも思わないというのは嘘だ。
一つだけ、男たちが死ぬ度に思うことがある。

――いい気味だ。

私の顔を欲しがるから、こうなるのだ。
声を出さなくても気にしない、顔が付いていればそれで良いなんて考えるから悪いのだ。
そんな馬鹿な男はいらない。

私が欲しいのは、ただ一人。
本当に私を愛してくれた彼だけ。
彼以外の人間などいらない。
彼以外の男など、皆同じだ。
くだらない欲望のために動く、私にとって何の意味も成さない存在。

だから、私は新しい主人に仕えるのだ。
その男の首を狩り取るために。

私は待っているのだ。
いつか彼が迎えに来てくれることを。
その日は近い。
私が死神だと、そんな噂が流れ始めている。
人は噂を信じる。
そのうち、男だけでなく私も殺されるだろう。
だからそれまで、せいぜい男たちの無様な姿を眺めることにしよう。


(ああ、この人の命は後どのくらいだろう・・・)


新しく主人となった男の後ろ姿を見た美しい女の顔には、酷薄な笑みが浮かんでいた。





end
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