一般の館

□さよなら、大好きな人
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「え、お見合い?」

『ああ、良い話がたくさん来ているんだ』


語学系の大学に入って三カ月、現在一人暮らしライフを満喫中の私の元に久々にかかってきた実家からの電話。
父親の口から発された言葉に、自分の耳を疑った。


「ちょっと待ってよ。そんな急に言われても困る。第一、私まだ十九なんだよ?」

『そんなことを言ってもな、お前の姉さんたちもその頃から相手探しをしていたんだぞ?』


確かにそうだった。
その甲斐あってか、この晩婚化が進んでいる時代に姉さんたちはみんな早くに結婚して、それなりに幸せな家庭を築いている。


『お前に好きな男がいると言うなら話は別だがな。今のところそんな噂も耳に入ってこない。実はもう日にちも決まっていてな。どうだ、会うだけでも』

「絶対嫌!相手は自分で探すんだから!」


父親の言葉を最後まで聞かず、一方的に電話を切った。


(パパったら、冗談じゃないわよ。私に何も言わずに、勝手にそんな話進めるなんて・・・!)


そんな思い通りに結婚なんてするもんですか。
私はまだ、王子様の存在信じているんだから。


(早く現れてよ。私の王子様・・・)


十九歳になって何を夢みているんだと笑われるかもしれない。
でも、それくらいしていなければ結婚に希望なんて持てなかった。
日本の経済を担う会社の社長の娘という立場は、政略結婚なんて当たり前という考え方がある。
父親の言う“良い話”とは、どうせ会社の未来に役立つ男からのアプローチなのだろう。

幸か不幸か容姿に恵まれた私たち姉妹には、縁談話が至る所から舞い込んできていたらしい。


(まぁ、最終的にはパパの思惑通りになるんだろうけどね・・・)


半分くらいは諦めている。
家のために生きる、それが私の人生なのだと。
それでも、


「せめて一回くらいは、ちゃんと恋したいよ・・・」


それは小さな独り言だったが、一人暮らしの家には思いのほか大きく響いた。



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