一般の館

□貴女を忘れない
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「王子、王子」


窓の外に見える海をぼんやり眺めている。
私の声なんて聞こえていないよう。


「王子!」


だからつい大きな声になってしまう。


「ん、ああ、姫。どうした?」


やっとこちらを向く王子は淡く儚い微笑みを浮かべていた。


「いえ、別に用と言うわけでは・・・。最近、海を眺めることが多いのですね」

「そうかい?」

「ええ。現に今だって。何か変わったものでも見えるのですか?」

「いや、そういうわけではないのだが・・・。何だろうな。懐かしい気がするんだ。それと同時に、何かとても大切なものを忘れてしまっているような気もね」

「そう、ですか・・・」


海。
それは私が王子に出会った場所。
正確には、“出会った”ではなく、“見つけた”なのだけれど。
一年前、嵐による船の難破で海岸に打ち上げられていた王子を私が発見したのが最初の事。
それから、王子に見染められ、プロポーズをされた。
王子の美しさと優しさに惹かれていた私は、すぐに了承した。


「姫?どうした、どこか具合でも悪いのか?」


ぼんやりと回想にふける私を王子が心配そうな顔で覗き込む。


「い、いえ。何でもありません。それより王子。そろそろ今日の執務のお時間ではないですか?」

「ああ、そうだった。まったく、座りっぱなしは苦手なのだがな」

「またそのようなことを仰って」


どこか子どものような顔をする王子を苦笑しながらたしなめると、王子も、冗談だよ、と笑う。
そして、


「じゃあ」


と言い残して部屋を後にした。


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