一般の館

□儚い光に願いを乗せて
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「茜のバカ・・・薄情者・・・裏切り者・・・」


今日は地域の神社で行われる夏祭り。薄暗くなった周りを見回せば、家族連れやカップル、友達同士ばかり。
そんな中、私はたった一人で綿飴を頬ばっていた。
本当は茜と来るはずだった。ところが昨日、茜にドタキャンされた。理由は、数日前に茜に彼氏ができたから。夏祭りには彼と行くと言われた。

そしてあの暴言に繋がる。


「今までくっつかなくて人をイライラさせてたくせに、なんでこんな時期にくっつくのよ、あの二人は」


こんな時期、つまり祭り前だからこそ絶好の告白チャンスだということはわかるが、それにしても腹が立つ。
ドタキャンされたからと言って、楽しみにしていた祭りに来ないのは悔しい。だからこうして一人で屋台巡りをしていたのだが、さすがに虚しくなってきた。


「帰ろっかな・・・」


口にすればその思いはどんどん膨らんでいく。人の波に逆らうように、私は元来た道を戻り始めた。

少し歩くと、目の前をぼんやりと浮かぶ光が通り過ぎた。ホタルだ。


(こんな所に、ホタル・・・?)


こんな都会にいるとは思えない。だが、それはホタルだと、なぜか確信していた。
ホタルがいるのに、周りの人たちは騒ぐこともしない。どうやら、私以外には見えていないらしい。

ホタルは、すぐ脇にある茂みの中に入って行った。その先にあるのは神社の境内だったはずだ。
少し怖い気もしたが、私はホタルを追いかけて茂みに入った。

ホタルは、まるで私を道案内するかのように、時々止まりながら飛んでいた。
私も必死で歩き続けた。

やっと開けた場所に出た。思った通り、そこは境内だった。ただ、今は使われていない昔のものだから、暗く静かだ。

ホタルはさらに進んだ。私もそれに続く。
すると、境内に人が腰掛けていることに気づいた。
ホタルはその人の前まで行くと、ふっと姿を消した。


「・・・誰?」


祭りの明かりで、やっと人の顔がわかる程度の暗さ。
正直怖かった。この状況も、この人も。
震える声で問いかけると、座っていたその人は立ち上がってゆっくり近づいてきた。
そして、私の目の前に立つと優しく微笑んだ。


「やっと見つけた。ずっと探していました。・・・ほたる」

「あ・・・」


その声には聞き覚えがあった。少し前から聞こえ始めたあの男の人の声。
そして、“ほたる”と彼が口にした名前を聞いた瞬間、頭の中に記憶が甦った。






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