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□やっぱりあれは照れ隠し
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「おい、忍足」
上機嫌とも不機嫌ともとれる声音に忍足は振り向いた。
聞き覚えのある声は案の定跡部のもので、その顔には挑発的な笑みが浮かんでいた。
前者か、と少しだけ安堵した忍足は、何?といつものような笑みで跡部と対峙した。
「お前、今日誕生日だよな」
「何や、覚えとってくれたん?」
この跡部に限って、と疑いつつも期待してしまうのは仕方がないだろう。
だが、
「いや、完全に忘れてた」
見事なまでに予想通りな跡部の返事に、わかってたけどな、と諦めつつも肩を落とす。
「朝っぱらから女どもが騒いでた。それと、ジローや向日なんかも1日妙なテンションだったからな、思い出しただけだ」
「ああそう。で、景ちゃんはわざわざ俺を落ちこませに来てくれたん?」
つい嫌味っぽくなってしまうのは許してほしい。
誰だって好きな相手からあんなことを言われたらこうなるやろ、と言い訳めいたことを思う忍足に、少しトーンの下がった跡部の声が聞こえた。
「違ぇよ、バカ」
「跡部?」
「プレゼント、渡しに来ただけだ」
「え・・・」
「けど、いらねぇみたいだな」
クルッと忍足に背を向けると、跡部はそのまま歩き出そうとした。
当然、焦ったのは忍足だ。
「すまんって跡部!いる、めっちゃいります!むしろくださいっ」
後ろから跡部を抱きしめると、離れろバカ、と不機嫌そうな声が返ってきた。
「うわ、ゴメン」
慌てて跡部から離れる。
「何焦ってんだよ。お前らしくもねぇ」
は、とバカにしたような笑みを跡部から送られるが、忍足はそれどころではない。
客観的に見れば、たぶん自分が見ても今の自分は笑えるものだろう。
(せやけど、シャレにならんのやって・・・)
認めたくはないが、自分の想いは跡部に受け入れられてはいない。
それは跡部の誕生日に、文字通り痛いほど身にしみてわかっている。
ここにきて跡部の機嫌を損ねてしまえば、これからは本当に希望がなくなる。
それだけは避けたかった。
「変なヤツ」
そう言われ、ハハハ、と乾いた笑いでごまかした。
そして、少し落ち着きを取り戻したところであることに気づいた。
「そう言えば跡部、プレゼントなんか用意するヒマあったんか?」
今日が自分の誕生日だと、跡部は学校に来てから知ったのではなかったか。
仮にも中学生。
授業を抜け出して買いに行く、なんてことはできるはずもなく、それならばこの放課後になったばかりに時間にどうやって用意できたと言うのだろう。
「・・・誰が物だなんて言ったよ」
「はい?」
ぼそりと呟かれた声は聞こえたが、意味が全くわからない。