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□空事情
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最近、謙也はよく空を見上げとる。
今もそうや。
なにをするでもなく、ただボーッと雲の出てきた空を眺めとる。
時折、ふ、と笑みを零すその姿を美しいと思うと同時に、一瞬にして消えてしまうんやないかと恐怖を覚えて。
「謙也」
「白石・・・?」
気づいたら、名前を呼んどった。
謙也は、突然聞こえた俺の声に驚いたように顔をこちらに向けた。
「また見とるん?」
「え?」
「空」
そう問えば、目を大きくして意外とでも言うような顔をする謙也。
「気づいとったんか」
「まぁ、そりゃな。かわええかわええ謙也君の姿はいつでも目に入ってまうもんなんです」
ふざけた口調でそう言うと、なんやそれ、とクスクス笑いながら返す謙也。冗談なんかやなく、ホンマにかわええ。
笑いを治めると、その口が小さく動いた。
「・・・雲がな」
「ん?」
「人間に似とるなぁ、て思ったん」
再び目線を空に向けると、謙也は言葉を続けた。
「どんよりしとる時は灰色で、悲しい時は涙みたいに雨振らせて、怒ると雷出して。・・・人間みたいや」
そう思うたら、なんやおもろいなぁってな。
苦笑混じりの言葉に、一つだけ疑問が浮かぶ。
「嬉しい時とか楽しい時は?」
「それは太陽の仕事や」
即答。
「俺な、雲ってもんは太陽休ませるためにあると思うん」
「?」
「いつもみんなを照らし続けとる太陽が休みたいな思った時に、雲が出てきて太陽隠してまうんやないか、って」
変や思うか?
首だけ俺に向けてそう問うてくる謙也に首を振るだけの否定をする。
その発想を変やとは思わん。
ただ、いつもの謙也らしくない。
こいつの従兄弟はロマンチストらしいが、謙也もそうなんやろか。
そんなことを考えていたら顔に出ていたらしい。
俺を見ていた謙也がくす、と笑って、変な顔と言う。失礼な。
「俺な、雲になりたいん」
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