一般の館

□希望の歌
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楽の音が止む。
それと同時に、私の動きも止まる。


「今日も素晴らしい舞いだったな」


満足げに笑う男に一礼すると、にっこりと微笑んで見せる。
それに気をよくした男は、ここに、と自分の隣の席を叩く。


「次は俺の酌を」

「申し訳ありません」

「・・・どうした?」

「慣れない海上で舞ったことで、少々酔ってしまったようです。本日は下がってもよろしいでしょうか?」


あながち嘘ではない。
現に顔色は悪くなっているだろうから。


「そうか。いいぞ、もう下がって休め」

「ありがとうございます。では、失礼します」


深く頭を下げると、部屋の戸を開ける。
その瞬間感じた冷たい風が室内に入らないように、すぐに扉は閉めた。


(疲れた・・・・・・)


ほぼ一晩中祝宴に出ては舞い、男――クナウ国王ジルドに酌をする。
そして昼間は彼の后になるための“花嫁修業”なるものが行われる。
そんな生活も今日で六日目だった。
自分の望まない生活は、ただいたずらに体力と精神を削っていくだけ。

私、ルナウはサーシラ国の王女だった。
ジルド王と私の父が治めるサーシラ国は国交があった。
だが、それは全て私を手に入れるためのジルド王の策略だった。

今から二十日ほど前、クナウ国の船が港を襲った。
王都に近い港。
そこから、ジルド王の軍勢は瞬く間に王都に侵攻した。
商人として入国していたはずのクナウ国の人間が、軍の様子や国の財政などを事細かに調べていたことで、サーシラ国の軍は苦戦を強いられ、そして負けた。
戦利品としてジルド王が提示したものの中には、私がいた。
敗北した国に拒否権はなかった。

お父様はずっと、すまない、と言っていた。
お母様は泣いていた。
他の兄妹達も、悲しそうな顔をしていた。

・・・私は、泣かなかった。
これからも泣かない。
辛い顔も出さない。
あの平和な国を、家族をめちゃくちゃにしたあの男を許さない。
あの男の隣りでずっと笑顔を作り続けてやろう。
一生騙し続けてみせる。
それが、私のできるせめてもの復讐なのだから。
そう心に決めた。



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