キミと〜シリーズ
□彼とアナタは近すぎて
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ポツポツと今までのこと――省吾に恋をしたこと、なぜか恋敵の彼女のフリをしたこと、結局その2人が付き合ったこと、自分の気持ちに整理をつけるために改めて告白したこと。
そして、
「・・・で、さっき振られてきたんだ。今傷心だからさ、あーさが慰めて?」
暗くならないよう、こてん、と首を傾げて麻子を見上げる。
大抵の人間の庇護欲を刺激するその仕草だが、親友のあまりの話に唖然としていた麻子には通じなかった。
目をぱちぱちと瞬かせた後、麻子は大きなため息をついた。
「ほんっと、お人好しのおバカさんだね」
「なっ・・・!」
「だってそうでしょ。どこの世界に恋敵手伝っちゃう人間がいるのよ。しかも男って」
「・・・ここにいるし。仕方ないじゃん。省吾先輩の辛そうな顔、見たくなかったんだもん」
「それがお人好しだっての」
「・・・悪かったわね」
傷口に塩を塗るような物言いに、さすがの紗弥も泣きたくなり俯いた。
目の前の親友は、こんなに冷たいことを言うような人間だったか、と。
だが、
「誰も悪いなんて言ってないわよ」
「え・・・」
パッと顔を上げた紗弥の目に映ったのは、見覚えのある優しい顔。
「自分より他人優先。確かにたまにはバカだなぁって思うけど、そこが紗弥の良いところでしょ?」
まぁ、今回は正直複雑だけどね。
苦笑しながら紗弥を見つめるその顔は昔の――紗弥の保護者と称されていた頃のものと同じで。
「〜〜〜っ、私、あーさと付き合うっ!あーさ、私のために関山先輩と別れて!」
「はいはい、あんたが本気で望んでるなら考えとくよ」
熱くなる目頭を誤魔化すように、思わず出てきた言葉。
そんな無茶振りにも、麻子は全く動じずに対応した。
そう言われるととたんに良心が痛む。
「ごめん、冗談」
「だろうねぇ。さすがに私じゃ、その省吾先輩とやらの代わりにはならないだろうし。私も今んとこ、康希に不満はないしねぇ。向こうはあるかもしれないけど」
私が紗弥を優先しすぎるから。
に、と笑う麻子に、心が軽くなる。
「ありがと、あーさ。でも、たまには関山先輩構ってあげなきゃ可哀想だよ?私、先輩に恨まれてそうだもん」
「大丈夫、そんなに心狭くないし。って言うか、そんな奴だったらとっくに別れてるっつーの。いや、そもそもつき合ってないか」
「えぇ・・・」
まさかの発言に、紗弥は中学時に流れたある噂を思い出した。
「じゃあもしかして、中学の時にまことしやかに流れたあの噂って本当だったの?」
「ん?」
「あーさが告られた時に、『先輩より紗弥を優先するけどそれでも良いですか?』って言い放ったってやつ」
その噂を聞いた時は、全力でその相手に謝りたくなったものだ。
「ああ、あれね。ホントよ、ホント」
そして麻子はその宣言通り、紗弥優先を未だに貫いている。
「ね、今日は?今日は大丈夫だったの?」
何となく嫌な予感がする。
「んー・・・?」
「え、何その意味深な笑み。ちょっと、今日絶対先輩と何か約束してたでしょ!」
「だーいじょうぶだって。埋め合わせはちゃんとするから」
噛みつく勢いの紗弥とは対照的に冷静な麻子。
後で謝っておこう、紗弥はそう決意した。
渦中の人物、関山康希とは紗弥も面識がある。
おまけに、彼は現在省吾達のクラスメートというかなり近い場所にいるため、知らないふりはできないのだった。
紗弥が悶々としていると、
〜♪
麻子の携帯が鳴った。
「うわ、先輩から電話だ。ごめん、ちょっと出てくるね」
「うん、気にしないで。行ってらっしゃい」
携帯を掴み店の外に出る麻子を手を振って見送ると、紗弥ははぁ、と小さなため息をついた。
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