一般の館

□儚い光に願いを乗せて
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ほたるは、戦時中のある村の娘だった。そして彼――晃太[コウタ]はほたるの許婚だった。
二人は愛し合っていた。しかし、結婚間近になったある夏の日、晃太に赤紙が届いた。
戦地に行かないことは許されない。ほたるは嘆いた。お国のため、と言われても、そう簡単に割り切ることはできなかった。

出立の前夜、晃太はほたるを水辺に誘った。
そこは夏になるとたくさんのホタルが飛び交う場所で、二人は物心ついた時からよくここに来ていた。


「明日だね・・・」


それまでずっと無言だったほたるがポツリと呟いた。


「はい」


晃太は静かに頷いた。


「帰ってくるよね・・・?」

「・・・」

「わかってるの。お国のためだから、仕方ないって。でも、あなたがいなくなったら、私・・・!」

「ほたる・・・」


顔を手で覆って泣きじゃくるほたるを、晃太はそっと抱きしめた。


「約束します」


ほたるの耳元に唇を近づけると、晃太は囁くように、しかしはっきりと言った。


「必ず帰って来ます。だから、待っていてください、ほたる」

「こ、た・・・」

「また二人で、ここにホタルを見に来ましょう」

「・・・約束、だからね」

「はい」

「待ってるから。ずっと、ずっと」

「はい」

「帰ってきて、絶対に・・・ん・・・」


返事の代わりに、晃太はほたるの唇に自分のそれを重ねた。
約束の口づけを交わす二人を、ホタルの淡い光が包み込んでいた。






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