短編

□百合のように真っ白な君へ
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「霧野は、白百合」

「?何だ急に」

「ん、気に入らないのか?」

「そういうことじゃなくて…」

「あれ」

「どれ…?」

霧野が俺の家に遊びに来ていたとき、ふとそんな会話をした。
リビングの横にあるテラスにある椅子に二人で腰掛け、まったりしていた。
そこからは丁度庭が見えるのだ。
俺が要望した通りに手入れされた綺麗な綺麗な庭。

その一角を指さして俺はそう言ったのだ。
霧野がそれを目で追って、顔を綻ばせた。


「…お前のとこの花、いつ見ても綺麗だよな」

「ありがとう」

「本当に花、好きなんだな」


ふふ、と楽しそうに笑う霧野。

俺は別に花が好きという訳ではないのだが、いや好きだが。
手入れされた調和された花が好きなんだ。
それでも、言うほどのことでもないので言わずに、静かに笑った。


「特に、白百合」

「あぁ…一番のお気に入りだ」

「あそこだけ、庭師じゃなくてお前が手入れしてるんだろ?」

「あぁ、行くか?そこでお茶でも…」

「行く!」


ぱぁぁっと顔を輝かせた霧野は普段とは少し違ってなんだか子供っぽい。
可笑しくてクスッと笑ったら、霧野はカァッと少し頬を朱に染めた。
そんな彼の腕を引き、俺たちはテラスから庭に降り立った。

花々に囲まれたロードを歩いて、奥にある白百合のところに着いた。
白百合は円をつくるようにして咲いており、更にその上にもアーチのように咲き誇っている。
全部俺の希望で、庭師に教わって自分で手入れしている。
ちょっとした自慢である。

真ん中のちょっと広めの空間に霧野と二人で座る。


「すんごい白百合」


クスクスと笑う霧野。
ぐーっと伸びをしてボスッと横になった彼は手を伸ばして近くにある白百合に触れた。


「白百合は、他の花とは全く違う」

「どんな風に?」

「雑に生い茂る中に、唯一美しく咲き誇るんだ。そうだな、オーケストラのソロ、みたいな感じかな?」

「ソロか」

「そう、凄く綺麗な。他の花に負けないし、目立とうとしているわけでもない。
ただそこで、自分の存在を静かにそれでいて強く示しているんだ」

「神童ー、目キラキラしてるぞ」


風がざぁっと吹いて、霧野の鮮やかな桃色の髪の毛が揺れる。
髪の色と綺麗に調和して、彼の色素の薄い白い肌が際立っている。

仰向けに寝そべっている霧野の顔をのぞき込むように、前屈みになる。
顔を近づけると髪が霧野の顔にサラリとかかって、擽ったそうに笑う。


「何、しんどー」

「霧野は、白百合なんだ」

「またその話かよ」

「初めて見たときからずっと、霧野は俺の中での白百合だった。」








凄く綺麗で、それなのに驕るようなこともない。


静かに、強く、優しく、清らかに、霧野はそこにいた。





他の人たちとは比べものにもならないくらい 美しい。




サッカーをしているときだって、コートの中に凛と立っているその姿はまさに一輪の白百合のよう。


日の光を浴びて、白く輝くその姿は俺を捕らえて離してはくれない。



「だから俺は、霧野の傍にいる」

「……何か、あの、もの凄く恥ずかしいんですけど」


かぁあああっと真っ白な肌を真っ赤に染めた霧野は、両手で顔を覆った。
小さな声で何か呻いている。
彼の手をそっと退かして、更に顔を近づけた。鼻が触れるか触れないかのギリギリの距離だ。


「近い近い」

「いいこと教えてあげるよ、霧野」

「何?」

「俺は綺麗な花が好き。でも一番は白百合。今も昔も、白百合だけが俺を魅了して離さない。
今もこれからも、俺は白百合に魅了され、愛し続ける」

「……」

「どういう意味か、わかった?」

「凄く恥ずかしいことはわかった」

「恥ずかしいか?」

「恥ずかしいだろ!!!!!!!何だそのプ、プ…プロ…」

「プロポーズ?」


吃っていたので、先に続くであろう言葉を言えば、霧野はコクコクッと頷いた。
確かに、考えてみれば…今の言葉はプロポーズと考えられなくもない。
普通に自分の思ってることを言っただけだったのだが……。


「霧野」

「何?」

「好きだよ」

「…知ってる。俺も好き」


一瞬驚いたように目を見開いた彼は、すぐにフワリと笑ってそう零した。

何もかも包み込むように温かい綺麗な綺麗な花のような笑み。
あぁ、ほら。
またこうして俺を虜にしていく。




綺麗な綺麗な




俺だけの白百合











「これからも、お前が綺麗に咲けるように」



精一杯の愛情をあげよう


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