novel

□わかって欲しかった
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最近、臨也の機嫌が悪い…と思う。

根拠はある。
昨日、池袋ですれ違ったときそっぽ向かれた。
……なんかしたか?俺。

そんなことがあった次の日は休日。
朝、ゲリラよろしく臨也がやってきた。
今日、静ちゃん暇でしょ。あがるよと、いってずかずか上がり込んできた。
つか何故、てめぇは俺の休日を知っている。
なにもいってないのに臨也は呟く。
「俺が素敵な情報屋さんだから」
…ストーカーか、てめぇ。
いつの間にかソファーに座った臨也はそっぽを向いた。
いつもなら色んなものを図々しくねだる癖に、今日は勝手に上がり込んできた上に何もしない。
ただそこにいるだけ。
……。
沈黙のなかに音が鳴り響く。
ピピピピピ……。
メールらしい。
携帯を持ち上げると
俯いていた臨也の顔も上がった。そして、一言。
「誰から?」
メールを確認する。
「トムさん」
業務連絡だった。
臨也はそれだけ聞いて俯く。

…なんかあたったんだろうな。
話を聞こうと思い、2人分コーヒーを入れ臨也の前におく。
そして、横に座ろうとすると、反対側にずれられた。
臨也はコーヒーを凝視したあと、ちびちび飲み始めた。
それを確認した俺は少し遠くの臨也に話し掛ける。
「てめぇ、どうしたんだ?」足をゆっくり上下させながら臨也は答える。
「わかってないよね。」
「何を…だ?」
ほら、全然わかってない、と顔を上げ話す。
「静ちゃんの周りにはたくさん人がいるでしょ?でも俺にはいない。」
「俺がいるじゃねぇか」
思わず口にでる。
「そう、だから俺は大丈夫。」
そういって指を自分の前に立てる。
「じゃあ「でも、違うんだよ。そーじゃない。心配なんだよ。」
俺の言葉を遮って臨也は身を乗り出し、続ける。
「ねぇ、静ちゃん。ちゃんと俺のことだけ見てる?ちゃんと俺のこと好き?」
眉間にしわを寄せ不安そうに話す姿は哀しくて、儚くて、でも綺麗だった。
それ以上に自分に腹が立った。

わかっていると思っていた。
「俺はお前が好きだ」
不安そうに話す臨也に視線をしっかり合わせて言う。すると、臨也は目を伏せ耳まで赤くしてわかったと小さく言った。

一番大切なことを臨也は
わかっていなかった。

だから…


わかって欲しかった。
(臨也なんか言え)
(静ちゃんごときに照れてるとかばれたくない!)

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