薄桜学園物語

□第三章 〜ナルシストな上級生〜
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広之新と葵の東雲兄妹が薄桜学園に編入してきてから、3ヶ月が経った…葵も広之新もすっかり学園生活に慣れ、友人も出来た…昼食を一緒に取る葵と広之新、沖田に斎藤は、部活の話で盛り上がっていた…

「剣道部は、今日も部活があるんだね…」
「あぁ…インターハイの予選も通過して、夏休みには本戦もあるからな…」
「広之新が入って、我が剣道部は更に強さを増した…インターハイ連覇も夢ではない…」
「まぁ、僕には関係ない事だけど…」
「ホントに凄いなぁ…アタシは結局予選落ちしちゃって…」

シュンとなる葵の頭を、広之新は優しく撫でる…本当に仲の良い兄妹である事は、この3ヶ月で皆が知る事となるのだが…

「ホントに、君達は仲が良いねぇ…危ない感じがしないでもないけど…」
「…お前と一緒にすんなよ、総司…」
「…どういう意味かな?広之新?」
「…言った通りだけど?何か文句あるか?」
「…あの総司と口でやり合える奴が居るとはな…」
「あ…あはははは…」

斎藤の言葉に、思わず失笑してしまう葵…広之新は真面目そうに見えて意外に毒舌な面もあるのだ…毒舌で有名な沖田と舌戦が出来る程に…

「…だが、お陰で土方先生への嫌がらせが減ったのも事実だが…」
「嫌がらせって…そんなに酷かったの?」
「あぁ…それはもう、土方先生の顔に疲労の色が出る程だ…」

火花を散らす沖田と広之新を余所に、斎藤は葵に沖田が土方に対してやった嫌がらせの一部始終を語り出した…興味津々で聞いていた葵だったが、その冷酷非道ぶりに段々と顔を青ざめさせた…

「…沖田くん…怖い…」
「あぁ…だがこれに耐え忍んだ土方先生は凄いと思う…」
「…斎藤くんって、土方先生が好きなんだね…」
「好きというよりは…尊敬している…人として立派な人だと、俺は思っている…」
「…尊敬…か…」

斎藤の言葉に、思わずそう呟いていた葵…初めて土方と会った時に抱いた淡い想いは、今でも持っている…だがいけない事なのだと自分の中に伏せていた…生徒が先生を好きになるなど、憧れでは良いかもしれないが…自分が彼を想うのは確実に恋慕なわけで…

「…東雲…東雲…おいっ!!東雲っ!!」
「えっ?…あっ、斎藤くん…」
「どうした?上の空だったぞ?俺が何度声を掛けても返事がなかった…」
「…ゴメンなさい…考え事してたの…」
「…そろそろ昼食時間が終わる…次の授業の準備をせねば…」

斎藤に促され、葵は弁当を片付けた…そう、今は学園生活を楽しんでいくだけ…葵は気合いを入れ準備を始めた…そんな葵の様子を見ていた沖田と広之新は、葵に聞こえないように声を抑えて話していた…

「…あのさ、広之新…葵ちゃんって、もしかして土方さんの事…好きなの?」
「…多分…ってか隠してるつもりらしいけどな…アイツは…」
「…あの人は止めといた方が良いよ?陰険で身勝手で我が儘な人だから、泣くのは葵ちゃんだって…」
「…お前がそう言うのかよ…総司…」



「…はぁ、終わったぁ…」
「全く、授業は退屈で仕方ないよ…早く竹刀を振りたいなぁ…」
「総司…学生の本分は勉学だ…疎かにしてはいけない…」
「一君は本当に真面目だね…あんまりそう気合い入れると、後でドッと疲れちゃうよ?」

午後の授業も滞りなく終わり、教室を出た4人…と、その前に長身の男子生徒が立ち塞がる…

「…東雲葵君ですね?私は3年の天霧九寿と申します…申し訳ありませんが、少しだけお時間を戴きたい…」
「…私に…ですか?」

突然の申し出に驚く葵…と、スッと葵を庇うように、斎藤と沖田が天霧の前に立ちはだかる…

「…天霧先輩…何故に東雲を…もしやまた…」
「全く…あの人も懲りないねぇ…嫁探しとか何とか言っては、次々に女生徒を堂々とナンパするなんて…」
「…仕方ない…あの方の命とあらば動くしかないのが、私の役割だ…」

一体何の事やら分からない葵と広之新…と、斎藤が後ろを振り向き、2人に声を掛ける…

「…広之新…東雲を連れてこの場を去れ…」
「一体何なんだよ!?説明して…」
「…話は後!!とにかくこの場から離れて!!」
「えっ!?」
「…邪魔をするのか?斎藤一に沖田総司…ならば強行手段にでるしかない…」

只ならない雰囲気に呑まれつつも、広之新は葵の手を取るとその場から走り去った…

「…いい加減に、諦めるべきだと思うのですが…」
「…私とて本意ではない…だが私も、彼に逆らう事は出来ないのだ…」
「…貴方が彼の家来…だから?」
「…天霧家は代々、彼ら風間家に仕えてきた…主の命は絶対…」
「だからとて、風間先輩のやり方は強引過ぎる…それを知っているからこそ、我々は彼に反抗せざるを得ない…」

3人の睨み合いは、暫く続いた…そこから放たれる静かなる怒気が、近くを通る他の生徒を寄せ付けずにいた…



「…一体何なんだ?あれは…」
「分かんない…でも…大丈夫かな?沖田くんと斎藤くん…」
「あいつらなら大丈夫だって…とにかく一度寮に行って…」
「…やはり逃げおうせてきたな…流石は我が嫁に相応しい女だ…」
「なっ!!いつの間に!?」

取り敢えず逃げてきた葵達だったが、再び別の男子生徒が立ち塞がった…今度は広之新が葵を背中にして立つ…

「…あんたは誰だ?」
「俺は風間千景…我が妻よ、お前を迎えに来た…」
「…我が妻だって?」
「…お前に用はない…そこをどけ…」
「…訳の分からない奴に、妹は渡さない!!そもそも我が妻って何だよ!?葵の意志を無視するな!!」
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