英国物語ルキア【完結】
□リクエストステージ「戯章」
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「ふわぁぁー!夏だぁぁ!秋なのに夏だよ!?」
素っ頓狂な声を出す織姫に続いてルキアもはしゃぎ気味に「泳ごう」と雛森の手を引いて波飛沫の中に駆け込んでいく。
あれから3日後、一同は船で丸一日移動した先にある毒ヶ峰リルカの所持するリゾート地の別荘へと招待されていた。
真っ白の砂浜、透明で青い海、常夏テイストの植物や果物。
その景色と空気は開放感に溢れ、水着やリゾートドレスなど、着るものは全て最新のコレクションが用意されている夢のような待遇に否が応でも女性陣のテンションは上がる。
「うひゃぁぁ!朽木さ…行きすぎ!ちょっと行きすぎぃぃ!」
「おーいお前ら!ここの海、遠浅だからって調子こいてるといきなり深くなるから気をつけろよー!」
「ほら!朽木さん、聞い…ゴボッ」
「案ずるな雛森、大丈…ボブッ」
とぽん。
「あー!2人沈んだぁぁぁ!」
「なにぃ!?」
「言わんこっちゃねぇ!」
「む…!?」
「キミたちちょっとは年相応の落ち着きを持ってくれないか!?」
大騒ぎの砂浜から少し離れたコテージのテラスから苦笑交じりにそれを眺めるのは修兵と乱菊。
「楽しそうねぇ…」
「混ざったらいいじゃないですか」
「ビーチは焼けるからやぁよ」
貴婦人は大げさに首を振りながら室内へ戻る。
「それに海水は肌を傷めるもの」
「だったらなんで海なんかに?お気が進まなければ断っても角はたちませんでしたよ。相手は子爵なんですから。オマケに使用人全員連れてくるなんて」
「あら。野暮ね。こんな面白い展開を放り出すわけないじゃない?」
輝く瞳で覗き込んでくる乱菊に、修兵はイヤな予感を禁じえない。
「…なんのお話で?」
「海はアバンチュールの宝庫」
うっとりと指を絡ませながら窓の外を眺めやる乱菊に、イヤな予感が色濃くなる。
「南国の開放感にルキアのガードも緩くなるかもしれないわねぇ…柔肌あらわなリゾート衣装にお堅い一護も雄に火がつくかもしれないわ?旅先の盛り上がりで織姫のテンションが上がるだろうし、石田だって」
「…よくご存知ですね…」
「うふふ」
勝ち誇ったように髪を捌く乱菊に修兵は呆れて次の言葉が見つからない。
「わからないほうがどうかしてるわ」
「…人の恋路を眺めるために来たんですか」
「アタシだって色々と事情があるのよ」
「なんの事情ですか。単なる出張亀にしか聞こえませんけど」
「煩いわねぇ。…でも今回のメインイベントは、なんと言っても阿散井ね」
楽しそうに頬杖をつく乱菊に修兵は聞こえないようにため息をつく。うまく話題を逸らされたことには気づかない。
(そんなところまでご存知なのか…)
「あのじゃじゃ馬ちゃんを阿散井がどう乗りこなすか、見ものだわぁ」
「乗りこなすも何も、阿散井の方は身分差を弁えているようですけど」
「あら。つまんない男ね」
「常識的、と言って下さい」
「常識ほどつまんないものはないわ。…でも…そうね、あのじゃじゃ馬子爵が、そんな杓子定規な言い分に付き合うかしら」
乱菊は悪戯っぽく笑って籐のソファに横になる。
「と、言いますと?」
修兵は編み団扇で乱菊を扇ぎ続けながら相槌のように問いかける。まともな返答は特に期待してはいない。
「女はドラマティックで情熱的な生き物なのよ」
(…意味わかんねぇ)
やはり、まともな返答は期待できなかった。
諦めの修兵が「抽象的すぎませんか」と尋ねると「それが女よ」と返される。修兵はいよいよ理解を諦めた。
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