英国物語ルキア【完結】
□リクエストステージ「掴章」
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「…後悔するなら言わなきゃいいじゃん」
ルキアが立ち去った調理場では鬱陶しい自己嫌悪に苛まれた一護がどんよりと作業を続けていた。
「…うるせぇな…後悔なんかしてねぇよ」
「してるじゃん」
「してねぇよ!」
「何大声出してんだ」
「あ、檜佐木さん。休憩ですか?」
「ああ、ちょっとだけな。…あれ、朽木は?」
修兵が室内を見回しながら言うと一護の表情が曇る。
「それがね、一護が追い出しちゃったんですよ」
「おいっ!」
「なんだ、また喧嘩してんのか。仲いいなぁお前ら」
紅茶ポットを用意しながら、さして感慨もなく修兵が言うと、「喧嘩じゃねぇっすよ」と一護がふくれる。
「じゃあなんだよ」
「アイツが自己管理できてねぇから説教しただけです」
一護の言いぶりに修兵は「また鬼先輩に戻ったのか」と苦笑した。
「鬼ってなんすか。普通っしょ」
「最近は大分丸くなったと思ったのに、なんでまた急に?」
紅茶を淹れ終わった修兵は、それを啜りながら近くに切り分けてあったパストラミとヨークシャープディングを皿に取る。
「なんか甘くなりすぎたからちょっと厳しくしてみたみたいなんですよー」
「へー」
「そんな事言ってねぇだろ!」
「ビシっとカッコよく叱ったまでは良かったんだけど、それに朽木さん傷ついちゃったみたいで、それ見て自分もへこんでるんです」
「だからそんなんじゃねぇし!」
「でもあの言い方はちょっとキツかったよね。私でもちょっと泣きたくなっちゃうかな」
「う…」
「ふーん…つまりカッコつけたけど失敗したわけだ」
「そういう事です」
「…何言ってんだてめぇら…」
「え?」
「だって…」
「なぁ?」
3人の視線がぶつかり声がかさなる。
『ルキアの好みの男でいようとしてるんだろう』と。
「…」
「朽木は熱血職人が好きみたいだからなぁ」
「そうそう、ただ甘やかすだけの男に興味はなさそうだよね」
「スキな人の好みの自分で居たいっていうのは、男の人でも同じなんだねー」
「て、てめぇら…」
「男らしさをアピールしてみたんでしょ。失敗したけど」
「言ってる事は間違ってないから先輩の威厳は取り戻せたんじゃないかな。恋人としては失敗だけど」
「そんな体裁取り繕ってもそのうちボロが出て失敗するぞ?」
「失敗失敗ゆうなよ!」
いよいよ泣きたくなってきた一護がフォークを投げると、丁度戸を開いた啓吾を掠めて壁に突き刺さる。
「あ、あ、あぶねぇな!てめ、一護か!わざとかこの野郎!」
この屋敷で最もやかましい男の介入により、当初の話題は騒ぎに埋もれて立ち消えた。
空に一筋の稲妻を以って。
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