英国物語ルキア【完結】

□リクエストステージ「叶章」
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「マカロンも…」

「お嬢さん、色みの綺麗な菓子、好きそうだなと思って」

「え…」

驚いて恋次を見返す視線に今までの気の強さが見えなくて、恋次は密かに戸惑った。

「まぁ、口に合うかどうか、わかんねーっすけど。…じゃ、失礼します」

戸惑いを隠し、上着を羽織って退室しようとすると「待ちなさいよ」と慌てた声があがる。

「…なんすか」

「1人でこんなに食べられないわ!今からお茶にするから、アンタも付き合いなさい」

「…は」

「な、何よ!かっ勘違いしないでよね!えっと、そう、仕事の話するんだから!そのついでよ、ついで!」

「はぁ…」

ケーキの箱を眼帯の執事に渡すと「ロイヤルミルクティを淹れて頂戴」と言いつける。

年嵩の執事がかしこまって出て行くと、遺された若い方の執事にリルカは「庭で飲みたいわ」とティーテーブルのセットを言いつけた。

「はぁ?なんでわざわざ庭だよ。ここでいいだろうが」

「口答えしないで空吾。私のいう事が聞けないの!?」

空吾と呼ばれた執事はリルカに詰め寄られて僅かに表情を曇らせる。

「…仕方ねぇな…おい、若僧。変な気起こすんじゃねぇぞ」

自分もそれほどの年でもないはずなのに、空吾は恋次に向かって敵意露わに上位から威圧する。

「…なんスか、変な気って」

悉くその気配をよく知っている恋次は、答えがわかっていながらも敢えて問い返した。

「お嬢に近寄ったらてめぇ…殺すぞ」

表情を変えずに低く物騒な言葉を残して空吾は退室する。

(…どこにも居るんだな…あの手のヤツって)

「何言ってんのかしら、あの馬鹿」

そしてどこでもその思いはなかなか伝わらないもんだと恋次は同情する。

「…なぁお嬢さん」

「リルカよ」

「え?」

「私にはリルカっていう名前があるの」

真剣な表情で言われて、名前で呼ぶことに重要な意味があるんだと恋次は察する。

「…わかったよ、リルカさん」

ポンと頭に手を置くと、リルカは拗ねたような顔になり視線を逸らした。

「…子供扱いして…」

「あん?」

「なんでもないわよ。何よ」

「ん?ああ、俺を茶に誘ったのって、仕事だけなんスか?」

「へっ?」

あまりにも自然で、あまりにも直球で、リルカは間抜けに口をあける。

「他に、意味はないんスか?」

「な、なによ、他の意味って」

恋次は頭に乗せていた手を髪の結び目に移し、するりと髪をなぞって引き寄せ毛先に口付けてみせる。

「例えば、俺に興味は?」

「!?」

「俺はアンタにすげぇ興味あるんスけど」

「は!?な!?何言ってんの!?」

慌てふためくリルカに恋次が一歩近寄る。

「…子供扱いなんかしねぇよ」

恋次の真剣な表情に憎まれ口も忘れてリルカは次の言葉を待つ。

「アンタは充分、女だ」

恋次がリルカの髪を離すのと、勢いよく戸が開くのは同時だった。

「もう準備できたのか?はぇえな」

「ああ、心配で気が気でなくてなぁ。…案の定だ。お嬢から離れてもらおうか」

「言うほど近づいてねぇだろ」

「だったらなんだよ、この有様はよ」

額がかち合うほど近くでにらみ合う2人の横でリルカは真っ赤になって立ちすくんでいた。

「さぁな。何の事かわかんねぇな」

空吾を押しのけると恋次は「行きましょうか、リルカさん」と手を差し出す。先日ルキアと食事に行ったときに、女性のエスコートの仕方を教わっておいて良かった。

「…嫌いよ」

「ん?」

「余所余所しい話し方は嫌いよ」

口を尖らせて睨むリルカに恋次は「言ってること変わってるじゃねぇか」と呆れる。

「うるさいわね、文句あんの?」

「…ま、そのほうが気楽でいいけど…そんじゃ、ま、聞かせてもらおうか。仕事の話ってやつを、とっくりと、な」

含みのある恋次の言い方にリルカは眉を顰めて「やっぱり子ども扱いだわ」と頬を膨らませた。


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