英国物語ルキア【完結】

□リクエストステージ「叶章」
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「…さん」

「…」

「井上さん?」

「…えっ」

近くで呼ばれてようやく気づいた織姫は慌てて微笑う。

「えっと、なんだったっけ」

「…いや、うん、こっちの片付けはいいから、ゴミ捨てたらあとは食器の片付けお願いね?」

雛森が今しがた言った事を重ねて言う。織姫は「そっかそっか」と自分の額を小突いた。

「…井上さん、どうかしたの?」

最近変だよ、と言われて織姫は返す言葉が見当たらず、また微笑む。

「いやぁ、なんでもないですよー。忙しくてちょっとおかしくなっちゃったかなぁ」

務めて明るく言う織姫に、雛森は表情を曇らせる。

それは、自分にもある悪癖だ。根元を断たないままに気持ちを捻じ伏せてしまう。

「…私じゃ相談相手には頼りないかもしれないけど」

「…え…」

「井上さんが元気ないことぐらいは、わかるんだよ」

雛森の困ったような笑顔に織姫の眉が下がる。

「あんまり無理、しないでね。パンクしちゃうから」

まとめたゴミ袋をいくつか織姫に持たせると「じゃぁゴミ捨てお願い」と背中を押す。

押されるがままに数歩歩き出してから足を止めた織姫は少し振り返りまだせわしなく片付けの作業を続けている雛森に問いかけた。

「雛森さんは…自分が嫌いだと思ったこと、…ある?」

その言葉に手を止めた雛森は「少し前までは、毎日」と笑った。




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