英国物語ルキア【完結】
□転章
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「今後は礼儀に気をつけましょう。…一護さん」
「…え?」
その瞬間、一護の口から零れ落ちた動揺の声は、ルキアの急に変わった言葉遣いそのものに対する驚きではなかった。
それは、突然置かれた距離に受けた衝撃の大きさに。目の前が暗くなるような寂寥に戸惑い毀れた声だった。
「…ちょっと待て、ルキア」
「おおーいルキアー!」
動揺した一護の声より大きく恋次の声が前庭に響き渡った。
「…遅いぞ恋次!黒崎家の皆さんは帰ってしまったではないか!」
「ああそりゃぁ悪かったな…つかお前今日休みだろ」
小言は受け流して話題を逸らす。
「まぁ、そうだが。なんだ」
「実は俺も午後から休みなんだよ。ちょっと晩飯付き合わねぇ?」
「!」
反射的に口を挟もうとした一護は開きかけた口を慌てて閉じた。
(あ。いけね。干渉しねぇって約束したっけ)
舌の根も乾かぬうちに口を挟みそうになった自分にげんなりする。
(こりゃぁ…癖とるのに苦労しそうだなぁ…)
そっと自分の口を手で押さえて防御しながら2人の会話を耳に入れる。そこは外さない。
「なんだ、貴様のオゴりか」
「いや俺じゃねぇ。知り合いなんだけどな。グランブリュの予約パァにしたんだよ」
グランブリュとは英国内でも屈指の歴史と品格を持つ一流料理店である。
「なんでもプロポーズするつもりでコネ使って予約してあったのに直前でフラれたらしくてよ。で、もったいねぇから俺に席を譲ってくれたってワケだ」
「グランブリュ?また随分な一流レストランではないか…貴様テーブルマナーとか、大丈夫なのか…?」
「そこだ」
「どこだ」
「ボケはいいんだよ。そういう上流店でのマナーとかよくわかんねぇから、お前に一緒に来て欲しいんだよ」
「成程…」
「なんならついでに浮竹さんに会いに行くか?店から施設までそんなに遠くないはずだぜ」
「む?それは良いな」
「だろ?」
「とりあえず貴様のその身なりから正さん事にはマナーどころか門前払いだな…よし、貴様の部屋に行くぞ。箪笥に山ほど設えてあるだろう。使い道のない余所行きの服が」」
(部屋!?)
黙って聞いていた一護の手が勢いよく弾かれた。
「おいルキアお前な、年頃の娘が男の部屋にそんな無防備に入っていいと…」
「始業時間。とっくに過ぎてますよ、一護さん」
懐中時計を示すルキアに、一拍遅れて「あ、やべ」と慌てた一護はあたふたと屋敷内に駆け込んでいった。…その表情は、この世界の誰からも見えない。
「…なんだぁ?あいつ。いつもならもっとこう…俺も立ち会う!とかいって絡まってくるのによ…。つか今お前、一護さんって……え?」
一護の背中を見送った恋次がルキアに視線を戻すと、これ以上ないぐらい眉根をよせたしかめっ面のルキアがぼろぼろと涙をこぼしていた。
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