英国物語ルキア【完結】

□転章
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「おおおーい!遊子ちゃーん?夏梨ちゃーん?父さん置いてくなんて酷いじゃないかぁぁl?」

「あ」

「お父さん」

「…だから忘れ物ないかって言っただろ?」

エントランスから情けない顔で走ってくる一心のうしろからはルキアがバスケットを抱えて付いて来ていた。

昨日よりも幾分ラフな格好ではあったが、やはり見慣れないルキアのいでたちに一護の胸は騒ぐ。

「ルキアちゃん!」

両手を広げて突進してくる父親をスルリとかわして遊子と夏梨はルキアへと駆け寄る。

勢い余った一心は門柱に激突。

「よかった!間に合って!」

息を切らせたルキアが手に持っていたバスケットを二人に渡す。

「道中でも帰宅してからでも食べると良い。パニーニと言ってな、恋次が得意とする伊国の軽食なのだが実に美味いのだ」

言っている自らが「美味しそう」な顔をして笑う。

その様子に2人はくすくすと笑いながら「ありがとう」と受け取った。

「恋次にも挨拶に出るよう言ったのだが…遅いな」

「あの赤い髪のお兄さん?」

「ああ。どうも表に出る事を得手としていないようでな…客人に挨拶もままならんようでは公爵家の台所を預かるものとして先が思いやられる」

口を尖らせてエントランスの扉をちらちらと眺めるルキアを「まぁまぁ」と夏梨はなだめる。

「忙しいんでしょ。ルキアちゃんからお礼言っといてもらってもいいかな?昨日の夕食も、今日の朝食も美味しかったって」

夏梨の言葉にルキアは我が事のように破顔する。

「そ、そうか…いや、そうだろう!?恋次の作る食事は軽食から正餐までどれも実に美味いのだ!昔から才ある輩だとは思っていたが、これほどまでに開花するとは思いもよらなかった!」

上気しながら次々と恋次自慢を力説するルキアをしかめっ面の一護が押しのけた。

「いつまで無駄話してんだよ。俺もう業務時間だからお前らそろそろ出発しろよ」

突然せかし出す一護のわかりやすい不機嫌に、双子と父親は必死で笑いを堪えた。

(拗ねてる…)

(ヤキモチだ…)

(ジェラシー…!)

「…何だよおまえら急に俯いて」

「…な、なんでもない…!」

「じゃ、じゃぁそろそろ帰るね!」

そそくさと馬車に乗り込んだ親子は、出発間際に窓から身を乗り出し声を揃えて手を振った。


「ルキアちゃん、待ってるからね!」


晴天に響く声に、ルキアは理由もわからず胸を締め付けられる。

『待っている』

それは叶って良い事なのだろうか。

自分が、黒崎家を訪れるなどと、そんな事が叶っても良いのだろうか。

嬉しさと恐ろしさが同居する。

(だって、私は、公爵家の養子で…それを知ったら、あの家族は…)

今日のような屈託のない関係でいてくれるだろうか。


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