英国物語ルキア【完結】

□捩章(後編)
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最初に動いたのは一護。

無言で立ち上がり下着も全て脱ぎだし始めたルキアに「あの馬鹿」と舌打ちしながらテーブルのリネンクロスを勢い良く引き抜く。

上にのっていた皿やグラスはほぼそのままにクロスだけ引き抜かれ、それを見た修兵は、宴会芸にできるな、と冷静に感心しながらも、落ちそうになったグラスをいくつか受け止める。

「雛森!」

一護は声を上げながら引き抜いたテーブルクロスを雛森へ投げ、受け取った雛森は、全て脱ぎ散らかしたルキアの身体をそれで包んだ。

「朽木さん!」

「…っ離せ!かまうな!私は小島さんと話しをしている!」

「いい加減にしないか」

哀愁の執事長がため息をつきながらルキアの肩を抑える。

散らかった服から紙幣を抜き取ると、水色のポケットへと戻した。

「そんな事をしたって、小島くんと『同等』にはなれない。…わかっているんだろう?」

石田の言葉にルキアの目から涙があふれ出した。

「だったら!なる!…同じ経験をしなければ気遣うことも許されないなら!」

泣きながら外へ飛び出そうとするルキアを雛森があわてて抱え込む。

「ちょっと、どこ行くの!?」

「スラムの売春宿だ!一晩で立派な売春婦になってやる!」

「おまえはアホか!!」

あきれ返った一護が大暴れするルキアを雛森と一緒に押さえつけた。

クロス1枚下が裸などということはこの際かまっていられない。

「頭冷やせ!うすら馬鹿!」

「だって!私は、気になるんだ!井上さんが傷ついたことが!小島さんが苦しんでいるのが!」

嗚咽を上げながら一護の燕尾服の襟を力任せに掴む。

「同じ経験をしなくては心配さえ受け入れてもらえないなら、私は、…する!」

しゃくりあげながら襟を握り締めるルキアにため息をつきながら一護は頭を撫でる。

「おまえな、自分が貴族の娘だってこと忘れてるだろ」

未婚の娘が姦淫を受けたとなれば、社交界では生きていけない。一族全てに迷惑がかかる。

ひとときの情熱に身を任せると取り返しのつかないことになる、と一護は諭した。

ところが。

「…それが、傷を受けるということではないか」

それでなくては意味がない、と言うルキアの迷いない瞳に一護は射抜かれる。

何よりも、自分を拾ってくれた兄に迷惑がかかることをルキアは心痛した。けれど、その心痛すらも必要なのだと。

「…男前…」

不覚にも感動した一護はからかいの言葉でそれを誤魔化した。

ルキアはその言葉に眉を顰めながらも、テーブルクロスを身体に巻きとめ、「では言ってくる」と踵を返した。

「まてまてまて!考えなおせ!つかとりあえず服着ろ!」

「ばっかじゃないの!?」

一連のルキアの言葉を聞きながら、水色はまだ現状を理解できないでいた。

目の前で服を脱ぎだした衝撃からまだ立ち直れずに。




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