英国物語ルキア【完結】
□捩章(後編)
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「だって、男を知らない人に僕らの気持ちがわかるわけないじゃない」
あざ笑う。
「たった1ポンドのために汚い大人の手で体中撫で回される気持ち悪さがわかるの?…わかんないよね?わかるわけない」
だってそんなにきれいなんだから。
「名前も知らない人に『ご奉仕』して、媚びて、精液に塗れて、やっと、くちゃくちゃの紙幣を投げられるんだ」
それを拾うとき、こころは少し欠ける。
欠けて、欠けて、なくなった。
なくなったままなら、こんなにつらくはなかっただろうに。
「同情なんて、傲慢だよ」
生々しい吐露にその場の全員が手を止めて黙る。
そしてなぜか全員がルキアを見た。
雛森は泣き出しそうな瞳で。
石田は縋るように。
修兵は息を詰めて。
一護は、睨むように。
そして水色は、蔑むような表情で。
目の前で眉を顰める穢れない人を蔑む事で水色は満足していた。
わからないでしょ?と得意げに傷を曝け出す。
癒せない傷に心を折り涙する様を期待する。それは水色にとって自分がルキアを汚すことを意味していた。
蠢く淀んだ情熱がルキアを飲み込む想像に仄かに高揚する。同時に絶望も。
それは自分が本当に望んでいることじゃないと、知っているから。
「…そうか」
全員の視線を受けたルキアは、枯れた声で一言。
「1ポンド、持っているか?」
「……は?」
まるで関係のないルキアの言葉に水色の脳裏が白くなる。
「1ポンド紙幣を持っているかと聞いている」
表情のない白い顔は、激しい憤りを表していた。
答えず戸惑う水色に近寄ると、ルキアは燕尾服やズボンのポケットに手を入れる。
「ちょ、ちょっと!?」
内ポケットからマネークリップにとめられた何枚かの紙幣を見つけ出すと、そこから1ポンド抜き、残りはポケットへもどす。
手にした1ポンドを自分のポケットへ納めると、ルキアは水色のタイを引き抜いた。
「これで私は貴様に『買われた』」
「………は!?」
「私は純潔を貴様に『売った』」
「な…!?」
泡を食う水色にかまわず、ルキアは服を脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと!?」
「さぁ、何をすればいい?」
結った髪も振りほどき、あっさりと薄絹のシュミーズ1枚になったルキアは水色の服にも手をかける。
「ちょっと待っ…」
「何をすればいいのか命令しろ。何せした事がないのでわからんのだ」
抗う水色の燕尾服を毟り取り、ベストとシャツのボタンを外す。
その場の他全員は開いた口が塞がらず、驚きのあまり固まって金縛りでも受けたように動けずに居た。
「やめてよ!」
水色が突き飛ばすと、ルキアは軽くよろめいて倒れこむ。
ガタンと椅子がひっくり返り、その音で金縛りが解けた。
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