英国物語ルキア【完結】

□燃章
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恋次は自分の負け犬根性に舌打ちした。

思いもかけず、夢にまで見た想い人が手の届くところに現れたのに、感じるのは距離ばかり。

再会が嬉しいはずなのに、胸の孔は埋まらない。より一層、強い切なさに襲われて。

焦燥感が理性を鈍らせる。

「…ルキア、俺は…」

このまま想いを告げてしまおうか。後のことなんか考えないで。

(違う、そんなのは、度胸じゃない)

「…恋次?」

おずおずと腕を掴んだ恋次をルキアは不思議そうに見上げる。

記憶の中の幼い表情と混ざって、恋次の情熱が膨れ上がった。


(好きだ)

(ずっと、ずっと前から)


公爵家への養子の話を聞いたとき、それはとても幸せになれる事の気がした。だから喜んで送り出した。

それは間違いだったと気づいたときにはもう遅かった。

だからなんとか追いかけようと思った。

相容れることはなくても、近くに居られるように。

あの塀の中に入れるように。


「俺は、ずっと…!」

「悪ぃ恋次!ちょっと匿え!!」

恋次がルキアの両肩を掴んだとき、バァンと戸が開きオレンジ頭が飛び込んで来る。

「…あれ?」

入ってすぐ閉じた扉に張り付いた一護は一拍遅れて現状を認識した。


寝台の上で向かい合う男女。


真剣な表情の恋次はルキアの両肩に手をかけ今にも引き寄せそうな雰囲気だった。

「えーっと…」

一護はバツが悪そうに視線を泳がせる。

恋次は恋次で、出した手をどう引っ込めたらいいかわからず固まっていた。

ルキアだけがきょとんとしている。

気まずい沈黙を打ち破るように再び勢いよく戸が開く。

「ねぇ一護どこいったの!?」

開いた扉に跳ね飛ばされた一護は具合良く扉の影に挟まれ扉を開いた人物からは死角になっていた。強かに頭をぶつけてはいたが。

「毒ヶ峰様」

ルキアが驚いたように名前を呼び、恋次は慌てて手を引っ込めた。

「あら、朽木公爵令嬢。…ふぅん…貴女…そうなの…」

リルカは2人の様子を見て年頃の娘らしく好奇心に満ちた視線でにんまりと笑う。

「さすが、庶民出身の公爵様は受け皿が広くていらっしゃるのねぇ」

自分は執事風情に入れあげている事は棚に上げて、リルカはルキアを嗤った。

その態度が、燃え盛っていた恋次の心に冷や水をかける。

そうだ、自分がルキアと深く関われば、ルキアが嗤われることになるのだ、と。

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