英国物語ルキア【完結】
□結章
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愛されたいのに
愛そうとしない
その繰り返しの中を彷徨って
僕がみつけた答えはひとつ
怖くたって
傷ついたって
好きなはひとには
好きって伝えるんだ
長い長い坂道を越えて、緩やかにうねる草原の道、ひとつふたつと民家が見えなくなってくる頃、その白亜の屋敷は見えてくる。
まるで夢か童話が形になったようなその館は、第十位公爵、松本乱菊邸。
「…変わってねぇな」
馬車から降り立った彼は誰に言うでもなく小さく呟いた。
乗ってきた馬車が走り去り、その蹄の音が聞こえなくなっても、しばらく彼はそこから動かなかった。
何かを思い返すように門柱からその中庭までをしげしげと見つめ、時折微笑み、最後には軽くため息をついて門に手をかける。
「…一護?」
門を開いたと同時に名前を呼ばれて彼…黒崎一護はあたりを見回した。
「こっちこっち。上だよー」
エントランス上のテラスから手を振る影を見つけて、一護は軽く手を挙げて応える。
「よぉ、変わってねぇな、水色」
「一護もね」
お互い少し大人びた表情で微笑んでいる事には敢えて触れない。
「ちょっと待って、今そっち行くから」
「わりぃな、仕事の邪魔して」
「平気。今日はそんなにすることないから」
テラスから姿を消した水色はすぐにエントランスの扉を開いて飛び出てきた。オマケつきで。
「いいいいちいいいいいごぉぉぉおおおお!」
涙目の旧友の突進をかわして一護は苦笑交じりに眉を寄せた。
「相変わらずうぜぇな啓吾…」
「ごめんねー、通りすがりに居たからさ」
「おい!てめぇら!なんでそんな俺に冷たいんだよ!せっかく久しぶりの再会に感動してんのに!つか一護、じゃあなーとか言って出て行って以来音沙汰ナシでよぉ!何してたんだよ!」
「いや別に…まぁ色々?」
「なんだよその素っ気無い態度は!俺がどんだけ寂しい思いをしたかわかってんのか!」
「たかが2年程度じゃねぇか」
「2年も!だ!!」
啓吾が苛立たしげに一護に指を突きつけると、横で水色は「2年かぁ」と顎を摘んだ。
「離れて過ごすには長いけど…何かを成すには短い時間だよね」
水色が意味深に一護を見上げると、一護は不機嫌そうに顔を顰める。
「…そんなもんは言い訳にはなんねぇよ」
そう言う表情は穏やかで、啓吾と水色はそこで初めて随分と時間は経過していたのだな、などと感慨を受けた。
「あいつは?」
誰の事かなどと、聞かなくても2人は心得ている。
「裏側。洗濯物でも始める頃じゃないかな」
水色が答えると「そうか」と手に持った大きな鞄を持ちなおす。
一旦を閉じた啓吾は「約束は果たせたのか?」と神妙な声で問いかけた。
いつもおちゃらけている彼の真摯な声は、それがとても重要な事であることを物語る。
2人の親友に見つめられた一護は、そちらを見ることなく強く響く声で答えた。
「そのためにここを出たんだろ」
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