英国物語ルキア【完結】
□リクエストステージ「戯章」
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「ほう…これが恋次か?とても同一人物とは思えんな」
「プロの撮影技術って凄いんだねぇ」
「なんかオープンと同時に凄い人気だって噂だよ」
「…噂だけじゃねぇの?」
「それがよぉ、ポスター全部持ってかれてるんだってさ!いいよなぁー今街歩いたらモッテモテなんだろうなぁー」
「それじゃぁ気軽に街歩きできないな」
「恋次のくせに生意気な」
本日の業務が終了し、いつも通り調理場の休憩スペースでがやがやと世間話に興じる一同から少し離れた所で翌日の仕込みに励んでいた恋次は遂に耐えかねてダンと包丁を叩きつける。
「おまえら本人の居る前でひそひそ話してんじゃねぇよ!鬱陶しい!」
不機嫌露わに怒鳴る恋次にルキアは「これは本当に貴様なのか」と大判ポスターを翳す。
「俺だよ!なんか文句あんのかよ!」
「文句はないが…まるで別人のような映りなのでな…」
ポスター紙面と恋次を見比べてルキアは眉を顰める。
そう、それはこの秋に新しく発表された毒ヶ峰リルカの服飾ブランド、「Acuril」のメンズ展開「AkurilHomme」の広告用ポスターだった。
ブランドのハウスモデルに、という契約で広報用の紙面には全て恋次がブランド衣装を纏って登場している。ブランドキャッチは『野生を纏え』。
リルカの直感通り、恋次のその雄雄しいセクシャルはリルカのデザインイメージに見事合致し、発表早々に超人気ブランドと成った。
「なんか若い男に凄い人気あるみたいっすよ」
カリスマって感じ?と、啓吾が身を乗り出して言うと、横から一護が「コックやめてモデルで食ってけば」と冷やかす。
「フザケんな。それ1枚撮るのに何日かけたと思ってやがる。そんなしちめんどくさい仕事、本業にするつもりねぇよ」
仕込んでいたオイル漬けに蓋をして仕舞い、調理器具を流し台に放り込むと、それを啓吾が洗い始めた。
「つーか、そもそもなんで毒ヶ峰嬢のとこのモデルなんかやる羽目になったんスか」
「たまたまだよ」
頭に巻いていたタオルを解くと、近くにあったコーヒーに口をつける。
「まぁ、リルカさんは一見あんなんだけど、あれで仕事には見習うところが色々在る。それを見るために近くに置いてもらってる。…後は…顔を売る為、だな」
「顔?」
「有名になっといて損はないって事だ」
「へー。阿散井って、そういうことに興味なさそうだけど」
「ああ…まぁ…。元々は興味ねぇよ。ただ、ちょっとした目標ができたんだ。そのためだ」
「目標?」
全員の視線を受けて、恋次は面倒そうに視線をずらす。
「…なんでもいいだろうがよ…」
「えーっ!そこまで言っといてはぐらかす!?」
リアクションも鬱陶しい啓吾がまな板を擦りながら恋次に情報開示を求めたが、恋次はのらりくらりと言い逃れるばかりですっきりとしない。
「俺の事なんざどうでもいいだろ。あとそのポスターもこっぱずかしいからどっか片付けとけ」
「うむ…なかなか様になっておるし、私の部屋に貼っておくか」
ルキアは意気揚々とポスターを丸めて抱え込んだが、その筒はすかさず横から一護に取り上げられた。
「こら、何をする!返せ!」
「あ、手が滑った」
わざとらしく湯を沸かしていたコンロの前にポスターを投げ出す。
「うわぁぁ!何をしておるのだ!火が点いてしまったではないか!?」
「うん、それわざとだよ朽木さん」
「ワザと!?」
「何を大騒ぎしてるんだい、こんな時間から」
「あ、石田くん」
振り返る織姫に薄く微笑みかけてから、ちりちりと厚手の紙の燃える煙と匂いに顔を顰め「危ないな」と一護を睨む。
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