英国物語ルキア【完結】
□転章
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「忘れ物ねぇか」
「…もー、子供じゃないんだから」
「忘れモンに大人も子供もあるかよ」
凡庸なやりとりをしながら一護が屋敷の門を開く。門の前には既に馬車が待機していた。
一夜明けた朝、目的を果たした黒崎ファミリーは早々に帰宅の準備を整えていた。ちゃっかりと朝食は頂いて。
「もうこんな襲撃はカンベンだぞ、お前ら」
「はーい。ごめんなさーい」
不機嫌そうな一護に、双子の妹は声を揃えて気の入らない返事を返す。
「お兄ちゃん、次はいつ帰ってくるの?」
「ん?んー…まぁ、10月ぐらいかなぁ…」
「えええ…まだ7月なのにぃ…」
「社交シーズンにはまとまった休みはとれねぇよ」
「働きすぎじゃない?」
「別に?普通だろ。見合った給料貰ってんだからきっちり働くのが道理だろが」
さらりと答える一護に、双子は僅かに眉を寄せた。
「…ねぇ一兄…」
「なんだよ…急に真面目な顔して…」
「無理、しちゃだめだよ?」
労わるような眼差しに一護は少し驚いて目を丸くする。
「そんなに頑張って働かなくても、もう大丈夫だから」
わたしたちは、しあわせだから。
「…おまえら…」
心配そうに自分を見る妹たちに、一護はくしゃりと顔を崩す。
「馬鹿だな。そんな心配いらねーよ」
腰をかがめて2人の妹を抱き寄せると「ありがとな」と耳元で囁いた。
「これでも結構この仕事、性にあってて楽しんでんだ。無理なんか、してねぇんだよ」
優しく目を細める一護に2人がほっと息を吐き口元を綻ばせると、むさくるしい声が遠くから響く。
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