英国物語ルキア【完結】
□リクエストステージ「紋章」
1ページ/15ページ
「一護。お別れの時間だ。…さよならを言いなさい」
いやだ、と思った。
花に覆われた亡骸は青白く、へこんだ頭蓋はそれがもう蘇らないことを約束していたけれど。
「一護」
「…ごめんなさい」
最期の言葉は別れの言葉でも感謝の言葉でもなく、謝罪。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
あまりにも安らかさから程遠い母親の旅立ちの顔に、幼い心は自責の念で溢れかえる。
(俺のせいだ)
自分が我がままを言わなければ。
(俺のせいだ)
自分が風邪などひかなければ。
まだ燻る風邪に咳がぶり返す。
「一護」
俯いたまま咳き込む息子に父親はしゃがみこんでその背中に大きな手を置いた。
「そんな顔してたら、母さんがガッカリするぞ」
どんな顔をしているのだろう、と一護は自分の顔に手をあてる。
「なぁ、一護。母さんは、お前と遊子と夏梨が大好きで、何よりも大切だったんだ」
「うん」
「だから、これからはお前が母さんが一番大切にしてたもんを、ちゃんと大切に護っていくんだぞ」
母に代わって。
役目を与えられた。
無力に打ちひしがれた一護にとって、それは。
「…俺、遊子と夏梨を護るよ!絶対に、絶対に!」
誓うようにまっすぐな視線を送る息子に、父はゆっくりと頷きながら「1人足りねえな」と一護の頭を撫でる。
「何よりも、お前を大切にしろ。自分を愛せない奴に、誰かを護る事なんかできねぇんだからな」
それは幼い一護にとって、確かに救済の言葉だった。
.