英国物語ルキア【完結】

□凛章
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「よろしくお願いします、冬獅郎坊ちゃま」


昨日までとは違う呼び方に、冬獅郎は顔には出さずに傷ついた。

当然の事だ。

仕方のない事だ。


それは冬獅郎が5歳の春。

雛森が13歳の春。

何十年と渡って松本家に勤めていた雛森の祖母が亡くなったその年に、住み込みの扶養家族だった彼女は正式にメイドとして松本家の一員となった。

使用人と主人。

明確な線を引かれてしまっては、子犬のようにじゃれあう事はもう叶わない。

当然の事だ。

仕方のない事だ。


「ああ…宜しく頼む、…雛森」


早熟な天才児は、その賢さ故に聞き分けが良く、その時の雛森の表情を見誤っていた。

貼り付けた精一杯の微笑みの裏が、傷だらけだとは気づかずに。



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