英国物語ルキア【完結】

□流章
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出会いは神との対峙に近かった。


男だらけのパブリックスクールの中を颯爽と歩きぬける姿は、直視してはいけない神聖なものに見えた。

その周囲の空気は確かに黄金色に輝いていて。

「なぁ、あれ、誰だ?」

やっとの思いで口から出た言葉はそれ。

「え?…ああ、松本公爵だよ。この学校の出資者の1人なんだぜ。おまえ知らねーの?」

そういえば聞いた事はある。名簿にも載っていたような気がする。

しかし、まさか、あんなに、

彫刻か絵画のように美しい人間だったなんて。

「なんだよ、オマエ一目惚れか?いくらなんでも相手が悪い。地主階級のオマエとじゃ身分が違いすぎるぜ。それに旦那が居る」

違う。

そうじゃない。

この想いはそんなわかりやすいものじゃない。

息も忘れて見つめる視線に気づいた美しい女公爵は、その視線を辿るように一直線に近づいてくる。

呪縛を受けたような戦慄が走った。

「え、おい、こっち来るぜ?」

興奮気味の同級生は、年頃らしい好奇心で下世話に騒ぐ。

その雑音に眉をひそめた。

静かにしてくれ。

いま、神が舞い降りるのに。

「ねぇ、あんた。イイ顔してるわね。首に鎖をつけられるのが好きそうな顔だわ」

舞い降りた神は、いきなり俗物的な言葉を投げつける。

「名前は?」

少女のように無垢で、ディモスのように計算づくの微笑み。

鎖は繋がれた。

甘く芳しく、やわらかな棘だらけの鎖が。

「檜佐木、修兵」

掠れた声で、やっとそれだけ答えると、神は「そう」と頷き踵を返す。

「また逢いましょう」

その言葉は祝福の鐘の音。再会を許された。

指先にまで熱が巡り、修兵は己の未来が決定づけられたことに悦びを感じる。

鎖は繋がれた。

自分は、あの方に傅くために在るのだと。


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