Short story

□『恋愛小説の前に…』
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「今の私には…幸せな恋人のはなしを書けない」

そう言ったら、

「失恋でもしたんですか?」

―なんて言われた。

私の担当になった編集者は、今年入社したばかりの新人Tくん20歳。

マンネリ化してきた私の小説に新しい「何か」を見い出してくれるに違いない、なんて初めは前向きに考えていた。編集長の推薦で、期待出来る子だって…でも、新人は新人。

「…ねぇ、私の小説どう思う?」

「僕は好きですよ」

「…正直に言わなきゃ仕事にならなぃわよ」

「…」

Tくんは黙ってしまった。

昔は真っ白な原稿用紙の上に書きたいものをスラスラと綴って楽しかった。

私が書くのは恋愛小説。
今の私に書ける恋愛小説は…ない。図星。失恋したのよ。泣くことが出来ずに、ただ終わったひとつの恋に切なさを感じるだけ。

私の恋愛小説はハッピーエンド。なぜか?だって読んでて悲しくなるような話を読者に植え付けるなんて…。読み終わったあと幸せなきもちでいっぱいになってほしいと思うんだもの。いろんな恋の形があるように、私の恋愛小説はハッピーエンド。

恋しているとき、きもちが共鳴するから、仕事も進む。自身の恋をそのまま書くわけじゃないけれど、小説の中の人物は自分の分身。
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