ゆらのと

□第二部 九、
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あらがわずに腕の中におさまる。
いくらまわりに人がいないとはいえ、外でこういうことをされるのには抵抗がある。それを毅然とした態度で銀時に知らせておいたほうがいいとは思う。
けれども、今は、腕をふりほどく気にも、苦情を言う気にもならなかった。
銀時のほうにそっと寄りかかり、身を預ける。
居心地がいい。
そう思う。
しばらくして。
「……じゃあ、そろそろ帰ェるとするか」
ぼそっと銀時が告げた。
抱きしめる力が弱まり、その腕が下ろされるのを、感じる。
桂は寄せていた身体を退く。
だが、それ以上は離れない。
銀時の顔をじっと見る。
「もう少し、一緒にいられないか」
いつのまにか口が動いて、そう言っていた。
銀時が眼を見張る。
「オメー……」
だが、そう呼びかけたあとはなにも続けずに、その口を閉じた。
その身が寄せられてくる。
次の瞬間には、唇を重ねていた。
軽く触れただけで、それは去っていった。
しかし、また抱き寄せられる。
さっきと同じように身を預けると、抱きしめられた。
大切に想われていると感じる。
胸の中に、温かな感情が湧いて、広がって、しみる。
俺だっておまえのことを大切に想っているんだ。
銀時の腕の中で、そう強く思った。

夜、桂は風呂からあがったあと、居間で茶を飲んでいた。
今日は天気が良かったので、こんな時間になっても、あまり肌寒さを感じない。
桂は昼間に同志から得た情報を頭によみがえらせ、考える。
ふと。
机の上に置いていた携帯電話が鳴った。
考えるのをやめ、携帯電話を手に取る。
画面を確認する。
非通知、と表示されている。
だれからの電話か、わからない。
胸が少しざわめいた。
電話に出る。
「桂だ」
一瞬、間があった。
「……アンタの元恋人のところに、新八っていうヤツがいるな」
名乗らずに、電話をかけてきた者が話す。
「ソイツを預かっている。返してほしけりゃ、これから言う場所にアンタひとりで来い」
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