ゆらのと

□第二部 四、
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「俺がその侍を助けよう。だから、逃げろ」
女はうなずいた。
「他にも助けてくれる人を呼んできます」
「いや」
中にいるのは攘夷思想のないロクデナシたちのようだが、攘夷志士を名乗っているというのがやっかいだ。
真選組が動くかもしれない。
ここに彼らを連れてこられたら、面倒だ。
自分は指名手配犯なのだから。
「俺は腕に自信がある。ひとりで充分だ」
「でも」
「早く、行け。子供をこんなところに長くいさせてはならん」
子供と聞いて、女はハッとした表情になった。
女はまたうなずいた。
「あのお侍さんのこと、よろしくお願いします……!」
「ああ」
桂もうなずいた。
すると、女は子供を抱え直し、去っていった。
その後ろ姿を見送ることなく、桂は歩きだす。
早足で進む。
廃工場の中に侵入した。
足音を忍ばせ、物音のするほうへ向かう。
しばらくすると、攘夷志士を名乗るならず者と思われる男が倒れているのを見つけた。
気絶しているようだ。
倒れているのはひとりではなかった。
何人もいる。
倒したのは、女が言っていた侍だろう。
かなりの遣い手だと感じる。
やがて、声が聞こえてきた。
「貴様は正義の味方のつもりか!」
苛立たしげに怒鳴る声だ。
姿はまだ見えない。
そちらのほうに近づきながら、桂は耳をすます。
また声が聞こえてくる。
「そんなつもりはねーよ」
聞き覚えのある声だった。
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