ゆらのと

□第二部 三、
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昨夜の桂の姿が頭に浮かんでいた。
行為のあと、ぐったりと身を横たえていた。
長い黒髪は布団の上で乱れ、下半身は銀時の放った精と桂本人の流した血で汚れていた。
男とするのは初めてだと言っていた。
それは間違いないことだろうとは思った。
しかし、あのとき、本当に初めてだったんだなと痛感した。
咲き誇る花を落として、その花びらを地上に散らしたのは、自分だ。
サザンカの咲く門を通りすぎる。
しばらくして、桂の家の門が見えてきた。
昨夜に訪れ、今朝に出た門である。
そのまえまで行くと、いったん立ち止まった。
どうするか一瞬考えて、それからふたたび歩きだして玄関のほうへ進む。
玄関の戸のまえで足を止め、ガンガンガンと叩いた。
そして、家の中に呼びかける。
中から応える声はない。
だが、それでも待っていると、中から足音が聞こえてきた。
やがて、玄関の戸が開けられる。
敷居の向こうにいるのは、もちろん桂だ。
「どうしておまえは呼び鈴を鳴らさないんだ」
「めんどくせェんだよ」
「戸を打ち鳴らされると、うるさくて、近所迷惑だ」
なら、合鍵をくれ。
そう思ったが、言わず、敷居のほうに足を踏み出した。
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