ゆらのと

□第二部 二、
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昨夜のことを思い出し、桂は川のほうに向けていた眼を伏せた。
銀時の言ったこと、銀時にされたことが、生々しくよみがえってくる。
嘘だろう。
そう思う。
だが、嘘ではないのは銀時の様子からわかった。
わかっていて、嘘だと思いたかった。
今でも、嘘だ、冗談だと思いたい。
自分と銀時が、なんて、ありえない。
そういう対象として見たことがなかった。
そういう対象として見られているとは思いもしなかった。
だいたい、銀時には、自分が把握しているだけでも、過去に関係のあった女性が数人いた。
銀時本人はモテなさそうなことを言い、だからモテないとからかったりしたこともあるのだが、実際のところ銀時はモテるほうだと桂は思う。
怠惰な表情ばかり浮かべているからあまり意識されないが、その顔は男前の部類に入る。
体格もいい。
さらに、強い。
自分は剣の腕前では互角だろうと思うが、単純な力の勝負では勝てない。
そして、その強さを銀時は他人を護るために使う。
決して押しつけがましくなく、あたりまえのように。
本人は認めたがらないが、その性質は優しい。
幼いころは他の者とは違う銀色の髪のせいで、特に女子からは遠ざけられていたようだが、時がたち、その容貌が男らしくなり、そしてその性格がわかるようになると、様々な女性から想いを寄せられるようになった。
ただし、自分の知っている限りでは、銀時が関係を持つのは玄人ばかりだった。
いつのまにかつきあい始め、いつのまにか別れていることが多かった。
深みにはまってしまって醜態をさらすこともある自分とは違っていた。
銀時のつきあい方は、良くいえば後腐れがなくて綺麗、悪くいえば淡泊なものだったように感じる。
だから、わからない。
ずっと好きだった。
そう銀時は言った。
その、ずっと、がいつからなのかわからない。
いつからなのか、そんなことはどうでもいいようで、しかし、気になった。
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