ゆらのと

□第一部 四、
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境内は静まりかえっている。
もう、皆、寝ていてもおかしくない時刻だ。
しかし。
少し進んだところにある庫裏の戸が少し開いていて、そこから灯りがもれている。
庫裏は台所であり、そこで寝起きしている者はいないはずだ。
「こっそり宴会でもしちゅうかの〜」
坂本も気づいたらしくて、そう小声で言った。
「かもな」
銀時はニヤと笑う。
山の中の廃寺に潜伏し続けていると、たまに息抜きもしたくなる。
仲の良い者たちが寝床を抜け出し、庫裏に集まり、楽しく酒を飲んでいるのかも知れない。
「驚かしてやろうぜ」
小声で坂本に提案した。
坂本はうなずいた。
ふたりそろってニヤニヤしながら、しかし足音を忍ばせて庫裏のほうに近づく。
そして、戸のすぐそばまで行った。
庫裏の中から声が聞こえてくる。
「……だから、銀時のいないうちに」
自分の名前を聞いて、銀時は眉根を寄せた。
俺がいないうちって、なんだ。
不穏なものを感じた。
気配を完全に殺したまま、耳をそばだてた。
庫裏の中からはひそひそと話す声が聞こえてくる。
「だったら、やっぱり、やるなら今夜か」
「ああ」
「そうだな」
中には数人いるらしい。
「だが、相手はあの桂だぞ、大丈夫なのか」
不安そうな気弱な声があがった。
標的は桂なのか、と銀時は表情を険しくする。
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