ゆらのと

□第一部 三、
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天人が来襲して江戸城に大砲を撃ち込んで幕府に開国させたことがすべての発端であり、それは天人と幕府の関係を象徴する出来事でもあった。
対等な立場ではない。
幕府は天人の力を恐れ、言いなりになっている。
天人の求める不平等な条約を締結し、その結果、この国の民の生活は苦しくなった。
これでは侵略されているのと同じだ。
そう考えた松陽は、とりあえず天人をこの国からいったん追い出すことを主張した。
松陽には無邪気なところがあり、また、正しいと信じたことについてはなにがあっても折れず、なにも恐れずに堂々と発言した。
攘夷志士たちは松陽の思想に共鳴し、その思想を実践した。
だが、それにより、天人は松陽を危険な存在として見なすようになった。
そして、幕府は天人の意向に従い、松陽を捕らえた。
島流しになるだろう、というのが大方の予想だった。
松陽は幕府に逆らうような思想を唱えたが、実践はしていない。
もう二度と会えないかも知れない島流しですら、塾生たちにとってはつらいものであったが、それでも生きてさえいればと思うようになった。
だが。
松陽に下されたのは、死罪、だった。
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