ゆらのと

□第一部 一、
2ページ/6ページ

走ってきたせいで桂は口で息をし、その胸は短い間隔で上下している。
銀時は口を開く。
「……放せよ」
にらみつけた。
たが。
「松陽先生が心配していたぞ」
桂はまったく怯まずに言った。
その顔は整っていて、優しげで、身体つきがほっそりとしていることからも、少女のように見える。それも、凛としたとびきりの美少女のように。
けれど、桂は少女ではなく少年である。
しかも剣の腕前に秀でていて、同世代の少年の中で桂と立ち会って勝てるのは銀時ぐらいだ。
「先生と喧嘩をしたそうだな」
「……」
そのとおりだ。
「詳しいことは知らないが、先生はおまえのことをすごく心配しているし、おまえに帰ってきてほしいと思っているみたいだ」
それなら、今ここにいるのは桂であって松陽ではないのは、どうしてなのか。
松陽が銀時を捜していないからではないのか。
家を飛び出した銀時のことを心配してなんかいないのではないか。
桂の言ったことはデタラメだ。
そう銀時は思い、口を強く引き結ぶ。
すると。
「先生もおまえを捜してる。ふたりで一緒に捜すより別々に捜すほうがいいと思ったんだ」
桂は銀時の考えていることを見透かしたように言った。
松陽が捜している。
それがわかって、その姿を想像して、銀時の心は激しく揺れた。
しかし。
「うるせェな!」
そう怒鳴り、桂につかまれている腕を力いっぱい振った。
桂の手が放れる。
だが、それだけでは済まず、銀時の力が強すぎたらしくて、桂の身体は吹き飛ばされた。
さらに桂はうしろへと倒れそうになり、しかし、どうにかといった様子で踏みとどまった。
驚いた顔をしている。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ