ゆらのと

□第二部 十二、
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四阿は影が落ちていて少しましであるものの、それでも暑い。
屋敷内の空調は完璧で心地良くすごせるようになっている。
しかし、暑い外にいて、桂はいくぶんほっとしていた。
外とはいえ高い塀に囲まれた庭であるのだが、室内にいるよりは閉じこめられている感じがしない。
この四阿にはトアラに案内されてきた。
だが、今、トアラはいない。
しばらくこの四阿で話をしたあと、去っていったのだ。
桂を庭でひとりにして息抜きをさせてやろうという、彼女の配慮なのかもしれない。
どのみち、逃げられないのだから。
ふと、ひとの気配を感じた。
四阿の近くに低木が生い茂っている。その葉がガサガサッと鳴った。
「ヅラ」
ひそめられた声が呼びかけてくる。
小声であっても、その声の持ち主がだれであるのか即座にわかった。
夜兎族の少女の姿が頭に浮かんだ。
桂はわずかに表情を揺らした。だれかに見られているおそれがあるので、驚きを顔に出してはいけない。
あたりの風景を興味深く眺めているふうをよそおい、声のほうを見る。
低木と低木のあいだから、豚耳と豚鼻をつけた少女の顔がのぞいている。その隣にはカッパのような格好をした少年の顔もあった。
つい噴きだしそうになって、自制する。
妙な変装ではあるが、かわいらしいと感じた。
心が明るくなる。
「ひさしぶりだな」
おさえた声で告げた。
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