ゆらのと

□第二部 九、
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昨日ほぼ一日中降っていた雨は、今朝方、やんだ。
しかし、昼を過ぎても空は曇ったままで、太陽は隠され、あたりの空気は冷たい。
桂は寺の境内に足を踏み入れる。
かぶき町の中にある小さな寺だ。
天候があまり良くなく、花見の季節にはまだ早いせいか、境内に人の姿は見あたらない。
いや。
本殿の向こうから、人がゆっくりと歩いてきた。
眼が合う。
銀時だ。
先に来て待っていたらしい。
昨夜、銀時は携帯電話にかけてきて、今日のこの時刻にここに来るよう言ったのだった。
その姿を見て、桂は眉根を寄せる。
歩くのを少し早め、近づいていく。
「……どうしたんだ、その顔は」
そばまで行くと立ち止まり、たずねた。
銀時の頬が両方とも腫れている。
殴られた跡のように見える。
「ああ、これか」
銀時は右手で頬をなでた。
「ガキどもに殴られた」
「はァ?」
「いや、ちょっとあってな」
「またなにか事件に巻きこまれたのか?」
「まァ、そんなところだ」
そう銀時は曖昧な返事をすると、それにしてもアイツら手加減しねェんだからな、と小声でひとりごとのように文句を言った。
よくわからない。
桂は小首をかしげる。
しかし、銀時の話している様子から、その台詞に出てきたガキども、アイツらは、犯罪組織の者ではなさそうだと感じた。
だから、これ以上は追求しないことにする。
その代わり、別のことを聞く。
「それで、なんの用だ」
すると。
「用がなけりゃ、呼び出したらいけねェのか」
銀時は軽く笑った。
さらに、その手がこちらのほうに伸ばされる。
「会いたかっただけだ」
つかまえられ、その胸に抱き寄せられた。
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