ゆらのと

□第二部 七、
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「桂さんはどう思いますか」
そう、一番近くに座っている者に問われた。
部屋の中にいる者たちの眼が、すべて、桂のほうに向けられる。
皆、攘夷党の同志である。
彼らは党首である桂の意見を聞くために黙りこみ、そのため、部屋の中は静かになった。
ここは党員のひとりが潜伏先として借りている家の二階である。
桂を含めて十人いる。
もちろん、それで攘夷党の党員全員ではない。
急遽、討論しなければならないことが発生し、時間の都合のつく者たちだけが来たのだ。
昼過ぎから集まって話し合っている。
内容は、他の攘夷志士の集団から攘夷党に持ちかけられた将軍の暗殺計画に参加するかどうか、である。
計画を持ちかけてきた攘夷志士の集団は武闘派として知られる集団だ。
今回の計画は、入念に調べられた上で判明した将軍の警護の隙を突くものであり、成功率が高そうに見える。
ただ、計画を実行するには人数が足りない。
そんなわけで、穏健派ではあるが実力があり信頼もできる攘夷党に協力を求めてきたのだった。
桂は皆の視線を集めながら、口を開く。
「俺は、この計画には参加しないほうがいいと思う」
その返事を聞いて、部屋にいる数人が軽く息をのんだ。
意外だったのかもしれない。
「それはどうしてですか」
納得のいかない様子で聞いてくる者もいた。
桂は答える。
「話ができすぎているように感じる。綺麗にお膳立てされて、さあ、ここに飛びこんでおいてと、誘われているようだ」
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