ゆらのと

□第二部 四、
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天頂を過ぎた太陽から薄い光が降りそそいでいてあたりは明るいが、吹く風はひどく冷たくて、寒さを感じる。
托鉢僧の変装をした桂は廃工場の近くまで行くと、足を止めた。
攘夷党の仲間たちとの会合があった帰りである。
会合で、攘夷志士を名乗って狼藉をはたらく者たちがこの廃工場を根城にしていると聞いた。
気になったので、立ち寄ってみることにした。
先のことはまだ決めていない。
様子をうかがい、それから考えて決めるつもりでいた。
だが。
廃工場のほうから爆音がした。
桂は息をのみ、眼を見張る。
何事だ。
そう思い、止まっていた足が動きだす。
廃工場の敷地内に足を踏み入れる。
少し進んだところで、廃工場から女が飛び出してきた。
女は幼い男の子を抱いている。
攘夷志士を名乗る者たちとは違うようだ。
桂は女のほうに近づく。
女も桂に気づき、駆け寄ってきた。
近くまで来ると立ち止まり、桂をひたと見すえ、訴える。
「助けてください!」
「なにがあったんだ」
「この子が、あのロクデナシどもに連れて行かれて、それで一緒に助けに行ってくれたお侍さんが、まだ中にいるんです。この子を助けようとして怪我をして、それでもあいつらと戦って、あたしたちに先に逃げろって、その直後に、あいつらが爆弾を使って……!」
「わかった」
早口でまくしたてる女の話を桂はさえぎった。
中には多勢に無勢で戦っている者がいて助太刀がいることがわかった。
だから、もうそれ以上は聞かなくてもいいと思った。
詳しく話させるより、女とその子供を一刻も早くここから避難させたほうがいい。
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