ゆらのと

□第二部 三、
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朝のうちは空一面が重たげな雲で覆われていたのが、昼まえから雲が切れるようになり、今では淡い水色の空が大きく広がる中に薄い雲が所々に浮かんでいる。
かぶき町でもその手の店が多い界隈ではなく、住宅の多いあたりの道を、銀時は歩いていた。
その銀時の横を少年がふたり駆け抜ける。
「ホラ、早く来いよ!」
そのうちのひとりが振り返り、笑って言った。
「ええー、待ってよー!」
先を行くふたりよりも小柄な少年が弱っているような表情をしつつ足をもつれさせそうになりながら前方から走ってきて、やがて銀時の横を通り過ぎていった。
銀時はそのまま歩き続ける。
面識はなくて興味もたいしてないが、あの三人がいくつぐらいかをなんとなく考えた。
おそらく自分と桂が出会ったばかりぐらいの歳だろう。
自分があの歳のころ、あんなに無邪気だっただろうか。
いや、そんなことはないだろうと、すぐに否定する。
親に捨てられて、生まれ故郷をあとにして、争いごとのあとを亡骸の転がっている現場を漁って生きていたのは、桂と出会うまえだ。
無邪気ではいられなかった。
だが、それでも今と比べたらまだ無邪気だったような気もする。
そんなたわいのないことを考えながら歩いていて、何気なく向けた視線の先に花があった。
門の近くに樹が植えられていて、その枝に花をいくつか咲かせている。
幾重にも花びらをつけ、濃い緑色の葉の上でふわりと咲き誇っている。
花びらの色は純白、そしてそこに艶やかな薄紅色が少し混じっている。
サザンカだ。
樹の下の地面には花びらが何枚も重なって落ちている。
これから会うつもりの相手のことを思い出した。
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