ゆらのと

□第一部 六、
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空には雲が重く垂れ込めていて、ひるまえだというのに薄暗い。
頬をなでる風はひどく冷たい。
もう冬なのだと桂は感じる。
そのうち初雪が降るだろう。
桂は茶室の近くに立っていた。
攘夷志士を陰ながら支援する豪商の別邸の一角にある茶室だ。
広大な屋敷である。
茶室だけでなく、庭には大きな池もあった。
その池の向こうに、桂を含めた攘夷志士たちが寝起きする母屋がある。もちろん、その母屋も立派な建物だ。
こんなふうに支援してくれる者がいることを、ありがたく思う。
昔から支援者には感謝していたが、今は特にありがたく感じる。
世間では、攘夷戦争は終わったと受け止められている。
それも、攘夷志士の惨敗、として。
幕府による攘夷志士の残党狩りも厳しい。
そんな状況下でも支援してくれるのだから、本当にありがたい。
ふと。
耳がかすかな足音を拾った。
そちらのほうに眼をやる。
竹藪の横の小路を、銀時が歩いていた。
眼が合ってもお互いなにも言わず、近くまできたとき、ようやく銀時が口を開いた。
「こんなとこでなにやってんだ、おめー」
「散歩していて、少し足を止めていただけだ」
「そーか」
会話はそれで途絶えた。
お互い、黙っていた。
喧嘩したわけではないが、最近、話が弾まなくなった。
こういう状況だから、どうしても気が重くなりがちで、疲れてもいた。
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