ゆらのと

□第一部 五、
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眼のまえに、広くたくましい背中があった。
多くのものを背負い護ろうとする背中だ。

桂は走っていた。
山の中だ。
秋晴れで、木々の合間から明るい光が差している。
少しまえを銀時が走っている。
細い山道を駆け降りるその背中は広い。
いつもの白い戦装束は汚れている。
土だけではなく、返り血も付着していた。
それは桂も同じだ。
天人軍と一戦を交えたあとだった。

脱藩して戦に身を投じてから年月が流れた。
桂が参戦したばかりの頃は、攘夷軍は数が多く勢いも地の利もあった。
だが、天人がどんどん地球に降り立ち、人数が増え長く暮らし、その中の一部とはいえ天人による幕府の支配が進むにつれ、攘夷軍は劣勢に立たされるようになった。
戦で命を落とし、あるいは、負け戦続きの状況を悲観して志を捨てたり、攘夷志士の数は激減している。

松陽の塾で桂や銀時とともに学んだ高杉晋助率いる鬼兵隊は、彼らに決起を求めた張本人である幕府の要人に裏切られ、壊滅した。
それは、幕府に巣くう天人だけでなく、幕府全体が完全に敵になったことを意味する。
また、高杉は生き延びたものの消息を絶ってしまった。
勝手なところはあるが頭脳明晰で指導力もあるので、その失踪は攘夷志士たちにとっては大きな痛手だった。

坂本も去った。
時代は変わったと判断し、希望の持てない地上での戦に見切りをつけ、宇宙へと旅立った。

山をくだりきると、平野がある。
そこに仲間がいるはずだ。

天人の大軍が攻めてきたので、二手に別れて突破することにした。
桂と銀時は人数の少ないほうにいた。
囮のような役目があり、人数の多いほうをできるだけうまく突破させたかった。
しかし、桂たちが人数を減らしながらも合流地点に着いたときはだれもおらず、しばらく待ってもだれもこなかった。
桂と銀時は、他の者たちを先に新たな潜伏先へ向かわせ、自分たちふたりは戦場にもどることにした。
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