ゆらのと

□第一部 二、
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吹く風は冷たいが、天頂を過ぎた太陽から降りそそぐ光は温かい。
川は水面に明るい光を浮かべて穏やかに流れている。
銀時は土手に寝ころび、心地よく眠っていた。
しかし。
ハッと眼をさます。
あおむけになっていた身体を反転させた。
その直後、さっきまで銀時の寝ていたところに、書物が二冊、ドサッドサッと落ちてきた。
「なにしやがんだテメー!」
上体を起こし、近くにいる人物を見あげて、文句を言う。
すると。
「起こしてやろうと思ったんだ」
桂が銀時を見おろして、えらそうに言った。
「起こすならもっとフツーに起こせ! ってゆーか、起こしてくれなんざ頼んじゃいねー」
「頼まれなくても起こす。また怠けているようだからな。ほら、立て、行くぞ」
「嫌なこった。もっと昼寝がしてェんだ」
「もう昼寝という時刻ではないだろう」
「いつ昼寝するかは俺の自由だ」
「まったく貴様は口が減らない」
桂の声が低くなった。
その身体からは危険な気が漂っている。
その手は腰に差した刀にあった。
マズい。
「……まあ、そろそろ寒くなってきたしな」
そう銀時は言い訳するようにつぶやき、立ちあがる。
桂の手が刀から離れた。
土手をあがりきると、ふたり、肩を並べて道を歩く。
「おまえは松陽先生の手伝いをちゃんとしない」
まだ桂は怒っているようだ。
「手伝いしてくれって言われてねーよ」
「言われなくても、するものだ」
堅い口調で桂は言い返してきた。
その表情も堅い。
堅いのだが、その顔は秀麗だ。
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