ゆらのと

□第一部 一、
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灰色がかった大きな雲が太陽をゆっくりと隠し、欠けて細い線のようになった黄色い光までのみこむと、下界には影が落ちた。
さっきまで陽の光を受けて白く輝いていたススキの穂が、一転して薄暗くなり冷たい風の吹く中、どこか悲しげに揺れている。
その自分の背丈と同じぐらいの高さのススキを無造作に押しわけながら、銀時は進んでいた。
どこか目指すところがあるわけではない。
行きさきはない。
行くあてはない。
ただ腹立ちのままに歩いていた。
「坂田!」
うしろから呼びかけられて、ビクッと震える。
まだ声変わりしていない少し甲高い声。
振り返らなくても、その声の主がだれなのかわかった。
驚きで足が止まる。
けれど、次の瞬間、足を踏み出した。
「坂田、待て!」
無視して歩き続ける。
しかし、呼びかけられるまえよりは歩く勢いは落ちていた。
声をかけてきた者は走っているようだ。そんな音がうしろから聞こえる。
やがて追いつかれた。
「坂田!」
腕をつかまれた。
足を止める。
眉根を寄せ、思いきり不機嫌な顔を作って、隣を見る。
そこには、桂小太郎がいた。
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