ゆらのと

□第二部 五、
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自分が押し切って関係が変わったばかりのころは、桂が強張った表情をするのを何度も見た。
それが最近では、たまにではあるが、こんなふうに穏やかに微笑むようになった。
自分のそばにいて安心してくれているように感じる。
めちゃくちゃ幸せなんですけど。
桂の表情を見ながら、そう思った。
そばで桂が安らいでいると、温かい気持ちが胸に満ちる。
大切に、この世で一番大切にしたい相手だから、幸せであってほしい。
それが自分のそばにいるときであれば、いっそう嬉しい。
ただ純粋にそう思うのと、自分は桂に無茶な選択を迫ったという負い目がある。
幸せであってほしいと願いながら、それとは矛盾して、相手に望まない関係を選ばせた。
男とはありえないと思っていた桂に、男である自分に身体を差し出させた。
そんなふうに、まずは身体のほうから関係が変わった。
しかし、徐々に、心のほうも変化してきているように感じる。
性的な交わり以外で、いわゆる恋人扱いをしても、桂は以前のように拒否反応をしめしたり戸惑いを見せたりすることはなく、あたりまえのように受け止めるようになった。
そして、たまにだが、自分のそばで微笑むようになった。
穏やかに、満ち足りたように。
もしかして、と思う。
同じ想いを抱いてくれているんじゃないか。
聞いてみたくなる。
だが、結局は聞かない。
桂が認めてくれるかどうかわからない。
自分の希望的観測であるだけかもしれないし、そうでなかったとしても、認めることには桂の中でまだ抵抗があるかもしれない。
戸惑わせたくない。
それに、今の状態は自分にとっては充分すぎるぐらいに良い。
だから聞かない。
今のところは。
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